行動制限で減収の公共交通機関への財政支援パッケージ、議会審議へ
(スイス)
ジュネーブ発
2020年08月24日
スイス連邦参事会(内閣)は8月12日、新型コロナウイルスの感染拡大による需要減に苦しむ公共交通機関などの運営企業に対して、総額約7億スイス・フラン(約800億円、CHF、1CHF=約117円)の支援パッケージをまとめ、連邦議会〔国民議会(下院)と全州議会(上院)で構成〕に提出したことを発表した。
新型コロナウイルスの防疫のための行動制限措置により、公共交通機関の需要は最大80%減少し、公共交通や鉄道インフラ整備に関連する企業の収益は激減した。しかし、輸送サービス自体は新型コロナウイルスの影響下でも継続して提供される必要があり、経営を持続可能にするため、緊急の財政支援が必要な状態にある。
今回の支援は、国民議会の運輸委員会での動議を受けたものであり、連邦参事会が連邦議会に提出した支援パッケージ案の内容は以下のとおり。
- 地域内旅客機関(同一地域の都市間を結ぶ交通網)に対して、連邦政府と各州は2020年の赤字の財政支援を行う。連邦政府負担分は約2億9,000万CHF。
- 連邦参事会は動議で求められていた、2020年中の近郊交通機関(主に1つの都市内を結ぶ交通網、州および自治体運営)に対しての一律の一時金支給案は不採用。近郊交通機関の財政支援は州および市町村が責任を持つべきとの考えである。
- 貨物鉄道については、アルプス縦断貨物のトラック輸送から鉄道へのシフト(2019年9月20日記事参照)を推進するため、鉄道輸送利用に対する補助金を政府が支出しており、それを順次削減する計画だったが、2020~2021年の間は鉄道輸送への補助金削減は中断する。また、主要な鉄道貨物輸送関係機関に収益の悪化分を補助するための一時金を支給する。連邦政府負担分は約7,000万CHF。
- 鉄道インフラ基金(FIF、注)について、基金収入が減少することに対する財政支援を行う。年内にもFIFが債務超過に陥りかねない見通しであるため、重量貨物輸送通行税(RPLP)の繰入率を一時的に上乗せするとともに、基金の過去債務分の償還を2020年について停止する。これらにより2020年と2021年にインフラ整備活動に必要な資金は維持される見込みであるが、2022~2023年についてはインフラ整備プロジェクトの進捗次第で追加支援が必要になる可能性がある。政府負担分は約3億3,000万CHF。
(注)鉄道インフラ基金(FIF)は、アルプストンネルなど交通機関各社が利用する鉄道インフラ整備を長期的に実施するための基金であり、RPLPや付加価値税などの毎年繰り入れで維持されている。FIF法により2014年に創設されたが、FIFの前身のインフラ整備基金(FTP)で生じた債務返済もFIFが行っている。
(和田恭、マリオ・マルケジニ)
(スイス)
ビジネス短信 9220f818db2caae9