公衆衛生分野の買収への介入を可能に、近くさらに広範な買収規制法案も

(英国)

ロンドン発

2020年06月26日

ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は6月21日、公衆衛生の緊急時に重要な役割を果たす英国企業に対する、買収を阻止するための関連法を変更することを公表。翌22日に議会に省令案を提出し、23日に施行した。政府が介入できる事案として安全保障、メディアの寡占防止、金融の安定性の3つを規定している2002年企業法(Enterprise Act)の一部を変更し、「公衆衛生の緊急時」を追加した。

今回の変更で、ワクチン研究や医療防護具(PPE)製造業など、感染症対策に直接関与する企業が買収の標的になった際、政府が介入することが可能になった。新型コロナウイルス感染が拡大する中、既にフランスやドイツも類似の買収規制に動いており(関連トランプ ゲーム ブラック5月26日記事参照)、英国も追随した格好だ。アロク・シャーマBEIS相は22日、「英国は(外国からの)投資に門戸を開いているが、搾取は認めない。機会に便乗した投資家による買収から重要企業を守るために法律を変える」とツイートしている。

より強力な買収阻止法案も予定

政府はこの省令とは別に、人工知能、先端素材、暗号化認証技術を扱う企業を買収する際の規制を強化する省令案も6月22日に提出し、議会での審議を経て採択する考えだ。さらにこれらの省令で当座の対応を済ませた上で、買収阻止に向けて政府により広範な権限を付与する「国家安全保障・投資法案〔National Security and Investment(NS&I)〕Bill」を近く議会に提出し、成立を目指す。

政府は長く、買収に介入できるのは安全保障など先述3分野で、買収後の英国での年商が7,000万ポンド(約93億円、1ポンド=約133円)を超えるか、市場シェア25%以上となる大型案件のみに限定してきた。2018年10月には軍需品、軍民両用技術、コンピュータハードウエア、量子技術などに限り、年商下限を100万ポンドまで大幅に引き下げた上で市場シェアの条件も撤廃して規制を強化したが、その後予定していた安保・投資法案の提出は未だ実現していない。新法では、安全保障上の懸念が生じ得る分野での特定資産の50%超の取得や株式25%超の買収案件について事前通知を義務付けるほか、違反した場合には刑事罰も適用する見込みで、背景には中国企業などへの強い警戒がある。

(宮崎拓)

(英国)

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