EUの貿易救済措置発動は高水準を維持

(EU、世界)

ブリュッセル発

2020年05月08日

欧州委員会は5月4日、貿易救済措置(注)の活用状況に関する年次報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを取りまとめた。2019年末時点でEUが発動中の貿易救済措置は140件で、前年より7件増加した。発動中の措置の内訳は、アンチダンピング(AD)措置が121件と大半を占め、補助金相殺措置が16件、セーフガードが3件だった。

対中措置が全体の3分の2

対象国別では、中国からの輸入に対する措置が93件と、前年と同様に全措置の約3分の2を占めている。次いでロシアが多く(10件)、インド(7件)、米国(6件)が続いた。

2019年に新たに開始した貿易救済措置実施のための調査は16件(2018年は10件)、新たに発動した措置は12件(同6件)と、いずれも前年を上回った。EUでは2018年にAD措置と補助金相殺措置の適用を強化すべく、関連法令の大幅な見直しを実施しており、2019年の実績は「EUの高水準の貿易救済措置活用の維持を示すもの」と報告書は強調している。

報告書では、EUが対象となった他国の貿易救済措置についてもまとめている。EUに対する発動中の措置は2019年に175件で前年(174件)と同水準だった。国別では米国が36件で最多、中国(20件)、インド(18件)が続いた。米国の措置件数は2016年比で71%増加しており、とりわけ米国の1962年通商拡大法232条措置に代表されるように、鉄鋼分野で新たな措置が発動されていると指摘。さらに、米国の措置がカナダをはじめ他国での鉄鋼分野の貿易救済措置発動を誘発したと報告書は分析している。

そのほか、最近の傾向として迂回防止措置の活発な利用が挙げられた。この措置には、アンチダンピング関税や相殺関税の支払いを回避するために、産地を事実上偽った非対象国からの輸入や、僅少な加工を加えて対象品とは異なる産品として輸入申告を行うなどのケースが含まれる。報告書によると、発動中の140件の措置のうち、28件は迂回防止に関する措置だった。

(注)アンチダンピング措置(以下、AD)、補助金相殺措置、セーフガードの総称。セーフガードはEU域外全世界に対する措置のため、国別の件数はADと補助金相殺措置の合計を指す。ADと補助金相殺措置は同一産品で複数国が対象となった場合、複数としてカウントする。

(安田啓)

(EU、世界)

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