国内市場における原油価格を1バレル当たり45ドルに固定
(アルゼンチン)
ブエノスアイレス発
2020年05月26日
アルゼンチン政府は、5月19日付政令488/2020号を公布し、国内市場における原油価格を1バレル当たり45ドルに固定すると発表した。同政令は、即日施行された。公布の背景は、新型コロナウイルス感染拡大により国際的な原油および石油製品の価格が暴落し、国内価格にも大きく影響したため、原油の国内生産の落ち込みを食いとどめるのが目的だと説明している。2020年12月31日まで適応される。主な内容は以下のとおり。
- 国内における原油の売買価格は、2020年12月31日まで、1バレル当たり45ドルとする。この間に、10日間連続で、欧州の先物市場であるインターコンチネンタル欧州先物取引所ICEのブレント原油先物価格が1バレル当たり45ドルを超えた場合、固定価格は無効とする。また、エネルギー庁は、四半期ごとに固定価格を見直すことができる。
- 国内の石油生産会社は、2019年の雇用、投資、生産水準を維持することが義務付けられ、為替取引が規制される。
- 石油精製事業者および石油販売事業者は、国内の石油生産会社から原油を購入すべきとする。これら企業、事業者は、国内で購入できる製品の輸入取引を禁止する。
- ナフサおよびディーゼルに対する輸出税を引き下げる。税率は、0~8%で、ブレント原油先物取引価格をベースに計算される。
- 2020年10月1日まで、液体燃料税(ICL)の税率引き上げは実施されない。
- 炭化水素生産州機構(OFEPHI)を構成する国内の生産州10州は、固定価格をベースにロイヤルティーを得る。
国内で原油価格を固定することは、通称「Barril Criollo(バリル・クリオージョ)」と呼ばれ、2014年に当時のフェルナンデス・デ・キルチネル政権、2019年に当時のマウリシオ・マクリ政権なども取り入れた制度。5月19日付現地紙「インフォバエ」によれば、今回の決定については業界内でも意見が分かれている。
生産者側は、「中期的に見て、競争力のあるエネルギー価格を確保することで生産能力を保ち、輸入に頼らないことが大事」と政府の取り組みに賛同する。他方で、精製事業者、販売業者は、国際価格よりも高いドル価格で原油を買い、通貨安が続くペソでの販売が強いられるため不利な状況だ。政令には明記されていないが、消費者向けの価格も年末まで凍結される可能性が高いと見られる。5月21日付現地紙「エル・クロニスタ」は今回の措置について、国内の炭化水素生産を促し、雇用を維持しながら、長期的に自給自足を目的とする「良い取り組みと捉えることができる」と評している。しかし、新型コロナ感染拡大による外出禁止措置で、燃料の消費が約80%激減している中、州税が引き上がる(州へのロイヤルティーの支払い)ため生産会社の負担も大きい。2019年の雇用、投資、生産水準を維持しながら、外貨を得る手段が断ち切られ、「悲惨な状況」だとオフレコで語る生産者もいるようだ。
(山木シルビア)
(アルゼンチン)
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