大統領が新型コロナの影響緩和に向けた経済対策を発表
(メキシコ)
メキシコ発
2020年04月07日
アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は4月5日、国立宮殿で2020年第1四半期の政権運営報告を発表するとともに、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響緩和に向けた経済対策を発表した。原則として支持基盤である社会的弱者を救済するもので、操業停止に追い込まれている企業家向けの支援はほとんどない。対策を大きく分けると以下4種類。
- 社会的弱者に対する補助金の拡充、または前倒し支給(小農、漁師、高齢者、障害児など)
- 福祉銀行や開発銀行、労働者住宅基金などを通じた制度融資の拡大
- 公共事業の拡大(治水、灌漑、道路整備、大型インフラプロジェクト)
- 公共料金の価格維持、付加価値税(IVA)還付の迅速化
1.はAMLO政権下で進められている総合福祉プログラム(Programas Integrales de Bienestar)の拡充のみで、目新しいプログラムはない。2.には複数の開発銀行を通じた210万件の低利融資や福祉銀行(Banco del Bienestar)を通じた零細事業者への無利子無担保融資の45万件の拡充が含まれている。3.公共事業の拡大としては、AMLO政権が重視する4大プロジェクト(ドスボカス新製油所建設、マヤ鉄道、サンタルシア空軍基地拡張、テワンテペック地峡開発)の継続に加え、石油公社(PEMEX)に対する650億ペソ(約2,860億円、1ペソ=約4.4円)の支援、電力庁(CFE)による総額3,390億ペソの電力インフラ投資、総額250億ペソの治水・灌漑・道路補修工事、などだ。また、発表が遅れていたエネルギー部門インフラ投資計画を4月6日の週に発表するとしている。4.についてはガソリン価格を上昇させない約束に加え、付加価値税の還付を迅速化すると発言している。なお、経済対策の財源としては、歳入安定化基金(FEIP)の活用に加え、各省庁が運用する不要不急の信託を清算し、大蔵公債省が吸収することで財源にする。前者から1,500億ペソ、後者で2,500億ペソを捻出し、GDPの1.64%に相当する支援策となる。
経済界には失望が広がる
経済界は3月中旬以降、複数回にわたり、政府に経済対策の提案を行ってきた。経済界が要請していた内容のうち、今回採用されたのは付加価値税還付の迅速化だけで、強く求めていた納税や社会保障負担の繰り延べなど企業のキャッシュフローに対する支援が一切盛り込まれなかったことに、強い不満を募らせている。日本経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)は4月5日夜、「われわれは免税や特権待遇を求めているのではなく、企業で働く労働者やその家族、国家のことを第1に考えている。われわれが求めているのは雇用の保護であり、労働者の家族の収入を守り、企業の流動性危機が支払い能力の危機に発展することを回避することだ」と発表している。メキシコ経営者連合会(COPARMEX)は4月5日付プレスリリースで、「大統領は政権発足時から何も変わっておらず、貧困層の日々の生活に対する支援のみを重視し、雇用を増やすことができる企業の経営を維持するという考えは一切ない」と強い失望の念を表している。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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