欧州委、英国と新たな「離脱協定」案で合意
(EU、英国)
ブリュッセル発
2019年10月18日
欧州委員会は10月17日、英国のEU離脱(ブレグジット)に伴うアイルランド島の国境管理問題などにかかる修正条項を含む離脱協定について、英国政府と交渉官レベルで合意に達した。EUと英国の将来関係に関する政治宣言案とともに、欧州理事会(EU首脳会議)に承認を求め、同理事会は即日承認した。
合意ある離脱をめぐる最大の争点だった「バックストップ条項」は削除され、代替策として、北アイルランド地域は引き続き英国の関税領域にとどまる一方、同地域に輸入される商品に対しては、EU関税法典(UCC)に基づくルールが限定的に適用されるという特殊な立場に置かれる内容に差し替えられた。また政治宣言案については、当初案ではEU・英国間の通商関係について「制度・通関において密接な協力を実現する包括的な自由貿易圏(Free Trade Area)を創出する」として、具体的な枠組みを特定していなかった(関連ブラック ジャック ディーラー)ところ、今回、英国が自由貿易協定(Free Trade Agreement)をベースとするモデルを選好したことを踏まえた文言に修正された。
ただし、新たな離脱協定案および政治宣言案について、英国議会の最終的な承認が得られるかは不透明な状況だ。
アイルランド島内での厳格な国境管理導入回避のための「苦肉の策」
今回の合意の最大のポイントは、「英領北アイルランドを英国本土とともに、EU関税同盟から離脱させつつ、アイルランド島での通関措置などの厳格な国境管理の導入をいかに回避するか」という点にある。欧州委が公開した応答要領によると、北アイルランドには、EUの単一市場を支えるUCCのうち、物品関連の法制度、衛生植物検疫(SPS)措置や農産品供給に関わるルール、商品に課される付加価値税(VAT)や物品税の法制度、国家補助ルールが適用される。北アイルランドはブレグジットに伴い、EU域外に置かれるが、商品流通を支える各種ルールや税制をEU基準と合致させた状態を維持させることで、アイルランドと北アイルランド間の国境管理を回避することを目指す。
関税面では、北アイルランドに入る輸入品のうち、さらに「EU域内に再輸出されるリスク」がある場合には、EU関税が賦課されるとする。他方、「EU域内に再輸出されるリスク」がない場合、関税は賦課されない、としている。厳格な国境管理の導入を回避するための「苦肉の策」ともいえるが、欧州委は、移行期間終了までに、この「EU域内に再輸出されるリスク」の基準の評価方法を決定するための合同委員会を立ち上げるとしている。
また、英国のその他地域から北アイルランドに出荷される商品については、SPS検査など必要な検査の実施を想定している。ここでは(EUの第三国となった)英国の税関当局が、EU法に基づいて英領北アイルランド向けの商品検査などを実施することで、EUの監督・管理メカニズムを担保する。
他方、EU域外国との関係では、北アイルランドは英国の関税領域として、英国がEU離脱以降に締結する自由貿易協定(FTA)のメリットも享受するとする。
今回の合意内容は、実務運用面が必ずしも明確でない要素を含むことから、双方の議会の議論を注視する必要がある。
(前田篤穂)
(EU、英国)
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