2020年度予算案、社会への投資と個人の税負担軽減に重点
(オランダ)
アムステルダム発
2019年09月26日
オランダ政府は9月17日、社会への投資と個人の税負担軽減に重点を置く2020年度(暦年)予算覚書を下院へ提出した。同覚書によると、「オランダ経済の成長は近年横ばいだが、GDP成長率は2019年1.8%、2020年1.5%を予測しており、依然として堅調」で、雇用率は非常に高く(2020年予測:失業率3.5%)、政府債務はGDPの50%未満と予測され、財政も良好だという。
2020年度予算案では、追加の予算措置として、住宅取得促進(3億5,000万ユーロ)、防衛(5,100万ユーロ)、フローニンゲンの天然ガス生産の早期廃止、青少年ケア(3億ユーロ)にも取り組むとしている。さらに、経済危機によりダメージを受けた労働者の税負担の軽減、無期雇用と柔軟な働き方のバランス改善のための追加措置も含まれる。長期的な取り組みとして、国家気候協定(The National Climate Agreement、注)、年金協定(The Pension Agreement)を持続可能な成長のための重要な課題としている。
同時に発表された2020年度税制改正案では、所得税減税、企業の税負担の増加、環境課税、税回避のための措置などが示された。
所得税は、現行の4区分から2区分への変更が2021年度に予定されていたが、2020年度に繰り上げて実施し、勤労者特別控除、一般税控除の引き上げを行う。この措置により、年収2万5,000ユーロの場合は380ユーロ、同4万5,000ユーロの場合は640ユーロ優遇される。
国家気候協定に基づき法制化される環境税は、環境汚染を引き起こす天然ガスなどのエネルギー源に対する課税が徐々に強化され、電気エネルギーは軽減される見通しで、持続的な暖房への移行を促すことを狙いとしている。平均的なエネルギー消費量の家庭では、2020年度に年間100ユーロの減税となる一方、企業には再生可能エネルギー促進のための賦課金の負担が増すことになる。また、電気自動車(EV)奨励のため、2021年度に終了予定だった税制優遇措置の多くを延長する。例えば、EV購入者と所有者は2025年度まで自動車購入税もしくは自動車税が免除される。
法人税の標準税率の引き下げは個人の税負担の軽減により見送られ、2020年度も25%に据え置き、2021年度以降に当初予定の20.7%よりも緩やかな21.7%へ低減する予定としている。
イノベーティブな活動から利益を上げている起業家に対しては、利益の一部に法人税減税を行う一方、イノベーションボックス(パテントボックスとも言い、知的財産から生じた所得に対する法人税の軽減)の税率は現行の7%から、2021年1月1日に9%に引き上げる予定。また、法人税を一括払いした場合に割引を受けられる制度は2021年1月1日から廃止される見込み。
オランダを介して資金がタックスヘイブンに送られる税回避への対策として、政府は利子とロイヤリティーに対する源泉徴収税を導入しているが、オランダが利益移転の抜け道とならないよう、源泉徴収税率を法人税率と同じ水準とする見込み。
税制改正案にはさらに、電子新聞、雑誌、書籍のVATを標準税率の21%から9%への引き下げや、20本入りたばこ1箱を2020年4月1日に1ユーロ値上げ、異常気象による作物の被害に対する保険加入奨励のため農業従事者の保険料税を21%減免することなどが盛り込まれている。
(注)国家気候協定(The National Climate Agreement):2019年6月オランダ政府発表。オランダの温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で49%削減するための新たな二酸化炭素(CO2)税などを含む環境関連税の導入などの具体的な行動計画。
(高橋由篤)
(オランダ)
ビジネス短信 ff6936aa62cfaf5b