電力庁、パイプライン契約の一部条項破棄を国際仲裁に申し立て

(メキシコ)

メキシコ発

2019年07月03日

メキシコ電力庁(CFE)は7月1日、民間企業と締結した天然ガス・パイプライン建設運営契約の一部条項の破棄をめぐり、ロンドンとパリの国際仲裁裁判所に申し立てを行ったとメキシコ証券取引所(BMV)に通知した。対象となるのは、米国センプラエナジーのメキシコ子会社IEノバと、カナダのTCエナジーの合弁企業IMGが約25億ドルを投じて建設し、6月上旬に完成したテキサス南部-トクスパン海底パイプラインをはじめとした合計7本のパイプライン契約だ。その他の6契約は、IEノバの子会社、TCエナジーの子会社(2契約)、メキシコ最大の財閥カルソ・グループの子会社、メキシコ資本のエネルギーインフラ建設大手フェルマカ(2契約)が契約相手となっている。

仲裁申し立ての背景には、地域住民の反対による封鎖などやむを得ない事情により、建設が遅れた場合でも、遅延期間に発生したコストも含め、契約で定められた投資回収率を確保する対価をCFEは契約相手に支払う必要があるという契約内容が、民間企業に有利でCFEのみが損害を被る「不平等で破壊的な契約」(アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領)だとし、前政権下で合意されたこれらの内容の見直しを現政権が求めたことにある。民間企業は契約見直しに応じなかったため、仲裁の申し立てに至った。CFEの7月1日付発表によると、CFEは同時並行的に和解交渉を進めており、フェルマカとは7月12日に会合を持つことで合意し、他の企業にも和解交渉を呼び掛けたところ、話し合いのテーブルに着くことで合意に至ったとしている。

内外から強い批判が相次ぐ

合法的に締結された契約内容を変更しようとする現政権の姿勢に対し、内外から強い批判が相次いでいる。日本の経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)は「民間企業のメキシコにおける投資に対する不安感を増幅させ、経済に悪影響を与え、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の批准プロセスにも悪影響を及ぼす」としている。また、2019年初から天然ガス不足で大規模停電が複数回発生したユカタン半島などの南東部に発電燃料を供給する重要なパイプラインの運用開始を妨げることになると批判する。米国商工会議所も7月1日、「合法的な既存契約を尊重し、法の支配を順守するという大統領のこれまでの発言に反するもので、メキシコのビジネス・投資環境についての否定的なメッセージを米国など諸外国の投資家に発することにつながる」とコメントしている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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