フォード、EV用バッテリー工場をバレンシアに新設予定
(スペイン)
マドリード発
2019年06月20日
米国のフォードが2020年9月からバレンシア工場で電気自動車(EV)用バッテリーの組み立てを開始する予定だと、スペインの当地メディアが6月5日に一斉に報じた。新プラントは、同工場で受注予定のプラグイン・ハイブリッド(PHV)モデルへのバッテリー供給を行うとしている。
ディーゼル車離れで生産台数は世界9位に
スペインの自動車生産台数は、ディーゼル不正問題や英国のEU離脱問題に伴う英国の需要減などの影響から、2016年を境に減少を続けている。2018年には、9月からの新燃費測定基準(WLTP)の本格導入やディーゼル規制強化を背景に、ディーゼル車離れとガソリン車への需要移行に拍車がかかり、新基準に対応したガソリンエンジンの供給が逼迫(2018年8月23日記事参照)。各メーカーは、同年秋以降の生産下方修正を迫られた。主力輸出先であるEU向けの伸び悩みや、為替要因などから新車販売台数が急減したトルコ向けも影響し、生産台数は前年比1.0%減の281万9,565台となり、ブラジルに抜かれ世界9位に順位を下げた。
2019年1~4月も前年同期比5.5%減とさらに減少幅が加速している。マドリード市が2018年末からハイブリッド車(HV)とEVを除く車両の中心部乗り入れを原則禁止するなど、従来のエンジン車に対する規制強化が進む一方、EVへの買い替え支援や充電インフラは依然不足しており、スペインでも消費者の様子見が続く状態だ。こうした中、フォードやグループPSAなど複数の自動車メーカーによるレイオフの報道が相次いでいる。
EV生産への移行が課題
スペインの生産拠点は、伝統的にディーゼル小型車や商用車に特化してきたが、近年は市場拡大を続けるスポーツ用多目的車(SUV)の受注に活路を見いだしている。また、商用車については、日産・ルノーとダイムラー、トヨタとPSAといった複数メーカー間の協業モデルの生産拠点としての性格も強めている(添付資料参照)。
一方、現在の苦境を受け、EV生産車種を拡大しないと自動車生産大国として生き残れないという議論も再燃しており、スペイン自動車工業会(ANFAC)は、2030年までにEV生産台数を50万台まで拡大しなければ、現在の地位を維持できないと警告する。
現在、国産EVは日産のミニバン「e-NV200」(2018年は約6,000台)とメルセデス・ベンツの商用車「eVito(ヴィトー)」(約400台)の2車種のみで、乗用車のEVモデルはごく一部の拠点で2020年以降の受注が決まっている程度だ。
今回のフォードの投資計画は歓迎されたものの、それは短期的には既存モデルの減産または生産移転、リストラと表裏一体で、本格的なEV時代を控えた生産再編は痛みを伴うものとなっている。
(伊藤裕規子)
(スペイン)
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