EUとの東方パートナーシップ10周年、ブラック ジャック webで温度差も

(EU、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニア、ロシア)

欧州ロシアCIS課

2019年05月15日

5月13日、14日にベルギーのブリュッセルで、EUと旧ソ連欧州部3カ国(ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ)およびコーカサス3カ国(ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニア)の経済協力の枠組みである「東方パートナーシップ(EaP)」のハイレベル会合が開催された。会合では、10周年となる同プログラムについて2020年に向けた社会・経済分野での協力の進捗状況が確認された。

EaPは2009年に、EUと地理的隣接性が高い上記6カ国とEUが政治的・経済的統合を加速化させるための枠組みとして創設された。2016年12月に発表された中核的協力プラン「2020年に向けた20の成果(20 Deliverables for 2020)」は、a.「横断的取り組み」(市民団体、ジェンダー、独立メディア)、b.「強い経済」、c.「強い統治」、d.「強い接続性」、e.「強い社会」の5つの分野に分かれる。会合では各項目のレビューが実施され、2019年時点で大多数の項目が達成されたが、地方での女性の権利の確立、独立したメディア、デジタル周波数の国家戦略策定、域内貿易の促進、腐敗・汚職防止、法制度改革(裁判官・検察官の機能強化)、サイバー犯罪への対策(サイバー犯罪条約の完全履行)、天然ガス輸送ロス・温室効果ガスの削減、ビザ発行手続き簡素化に向けた協力、若年層への職業訓練などに課題があるとされた。

参加6カ国とEUは協力を継続するが、その温度差には対ロシア関係が影響を与えている。地理的にEUに近く、ロシアと領土紛争を抱えるウクライナ、モルドバ、ジョージアはEUとの政治・経済統合を積極的に求めている(注)。会合に出席したモルドバのパベル・フィリプ首相は「EaPはわれわれに明確なEU加盟までの道筋を示さなければならない」と強い要望を表明。ジョージアのマムカ・バフタゼ首相は「EUへの接近(統合)を一層進める用意がある」と述べ、ウクライナのポロシェンコ大統領はEUによる対ロシア制裁に謝意を表明した。

一方、ロシアが主導するユーラシア経済連合(EEU)に加盟するベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は今回の会合に参加せず、アルメニアはエネルギー分野と国境紛争問題でロシアに依存していることから、両国はビザ簡素化など実利中心の個別協力を進める。アゼルバイジャンはイリハム・アリエフ大統領が公式夕食会に出席したが、同政府は会合の総括宣言についてアルメニアとの国境紛争問題を念頭とする表現を不満とし、採択を拒否したと外交筋の話として報じられている(「イタルタス」5月14日)。

(注)2014年には、ジョージア、モルドバ、ウクライナがEUとのDCFTA(包括的自由貿易協定)を含む連合協定に署名している。ウクライナに関しては、同署名の賛否に対する首都キエフでの抗議行動がウクライナの内戦やロシアによるクリミア併合につながっている。アルメニアは、2013年に連合協定に署名する予定だったが直前でキャンセル。2017年11月に代替として「包括的拡大パートナーシップ協定」を締結している(2017年12月4日記事参照)。

(高橋淳)

(EU、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニア、ロシア)

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