2050年に温室効果ガスの純排出ゼロへ、諮問機関が提言
(英国)
ロンドン発
2019年05月15日
英国政府の諮問機関である気候変動委員会(CCC)は5月2日、英国の長期的な温室効果ガス(GHG)排出削減目標に係る調査結果をまとめた報告書を発表した。調査は英国政府とスコットランド、ウェールズ両自治政府の要請により実施された。報告書では、2050年までにGHGの純排出をゼロにするという野心的な目標が提言され、その実現に向けて取り組むべき課題が示された。
英国は既に2008年気候変動法によって、2050年までに1990年比でGHGを80%削減する長期目標を設定している(2017年6月5日記事参照)が、今回提言された目標数値は、これを大きく上回る。また、地域の産業や状況などを考慮し、スコットランドは2045年までに純排出ゼロ、ウェールズには2050年までに95%削減とする地域別の目標も示した。
報告書では、英国がハイレベルな目標を設定することで、パリ協定など国際的な義務を履行するとともに、EUなどの諸外国の政策形成にも影響を与えながら、国際的な気候変動への取り組みを率先できるとしている。同様の目標が世界的に採択されれば、50%以上の確率で地球温暖化を1.5度以内に食い止められるという。
報告書はまた、技術開発により電気自動車(EV)用のバッテリーや洋上風力発電など環境負荷低減へのコストが減少したことで、現在の排出削減目標の水準を上げても、経済的な負担は変わらないことを指摘し、目標の実現可能性を強調した。
一方で、現在の排出削減目標を踏まえても、政策に大幅な改善が必要なことも指摘している。具体的な分野として、ガス暖房の多い熱供給分野の省エネ化や低炭素化、炭素回収・貯蔵(CCS)技術の普及、EVの早期普及に加え、農地や廃棄物などでの取り組みも求められるとしている。EVに関しては、遅くとも2035年までに全ての新車をEVなどの低排出車にすべきとしており、政府が設定した2040年までの内燃自動車販売禁止の目標を早めることを求めた。
同日の政府発表によると、今回報告書について直ちに全ての提言を受け入れるものではないが、英国が世界で気候変動対策のリーダシップをとるために適切に対応していく、としている。
(木下裕之)
(英国)
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