農業改革促す2つの発議、国民投票で否決

(スイス)

ジュネーブ発

2018年10月04日

スイスで9月23日、食料生産に関する倫理基準を高め、国内農業の転換を促す2つのイニシアチブ(国民発議)が国民投票に掛けられたが、ともに否決された。

1つ目は左派の緑の党が立ち上げた「フェアフードイニシアチブ」で、公正で動物や環境に配慮した農業による食料生産の推進を憲法の条項に盛り込もうというもの。2つ目は、農業組合の「ユニテール」が立ち上げた「食料主権のためのイニシアチブ」で、安価な輸入農産物との競争にさらされる小規模農家を保護し、持続可能で遺伝子操作を行わない農業の促進を目指すものだ。

「フェアフードイニシアチブ」では輸入製品に関してもスイス基準の適用を、「食料主権イニシアチブ」では追加関税賦課などを通じた貿易制限策の導入や価格調整を、それぞれ連邦政府に要求していた。これに対して政府は、国内で高品質かつ持続可能な農業を推進するという理念は共有する一方、幾つかの点で問題があるとして反対を表明。これらの要求はWTOルールや自由貿易協定などの国際合意と矛盾し、国際問題に発展しかねないと主張した。

また、「フェアフードイニシアチブ」に関して、スイスの経団連に当たるエコノミースイスも、輸入制限などによる食品業界の国際的な競争力低下、サプライチェーンの見直しや新たなシステム構築による管理コストの増大、農産品の価格上昇、消費者の選択の自由の制限につながるとして否決を呼び掛け、農業団体や消費者団体の間でも賛否が分かれていた。

両イニシアチブは8月時点では3分の2以上の支持を集めたものの、反対キャンペーンが影響してか支持率が急速に低下し、投票結果は「フェアフードイニシアチブ」が反対61.3%、「食料主権イニシアチブ」が反対68.4%で否決された。州単位でみるとスイス西部フランス語圏の4州(ジュネーブ、ヌーシャテル、ボー、ジュラ)を除く全州で反対が上回った。

(杉山百々子)

(スイス)

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