年金支給年齢前の解雇に刑事罰導入、刑法改正案提出
(ロシア)
欧州ロシアCIS課
2018年09月14日
プーチン大統領は9月6日、年金支給開始年齢到達前の労働者に対し、根拠のない解雇や採用拒否を行った場合に雇用者側を処罰する条項を加える刑法の改正法案を下院に提出した。連邦政府、最高裁から反対・修正意見は付されておらず、採択される可能性は高いとみられる。一方、実業界・法曹界からは政策目的達成の実効性に疑問の声が出ている。
提出された連邦法案は「ロシア連邦刑法の修正について(年金支給年齢到達前を理由とした根拠のない採用拒否と解雇に対する刑事責任の設定について)」。刑法に第144-1条を追加し、年金支給開始年齢まで5年内になった労働者を根拠なく採用拒否もしくは解雇した場合、雇用者に対し20万ルーブル(約32万円、1ルーブル=約1.6円)か当該労働者の給与額、もしくはその他収入額の18カ月分以下の罰金、360時間の強制労働が科せられる。
今回の刑法改正案は、現在ロシア政府が進める年金制度改革について理解を求めるため8月29日にプーチン大統領が表明した激変緩和措置(2018年8月30日記事参照)に関連するもの。
しかし、法曹界からは効果を疑問視する声が出ている。その理由は刑法第145条に規定される妊娠中の女性および3歳以下の子供を持つ女性を保護する目的の同様の条項だ。実際に同条項の適用が検討された事例は非常に少なく、女性の解雇や不採用は通常、事業規模の縮小や求めるスキルレベル未到達などを理由に行われる。これと同様に年金支給開始年齢近くの労働者の雇用拒否への処罰も、適用される可能性は少ないとしている。逆に雇用者側は法的紛争のリスクを避けるため、年金支給開始年齢に近い労働者(例えば50歳以上など)を採用しなくなり逆効果との指摘もある。
実業界からも反発の声が出ている。有力企業団体の「実業ロシア」は、刑事罰の導入ではなく雇用主負担の引き下げなどの経済的メリットを企業に付与することや職業再訓練制度の充実などにより、政策目標を達成するように誘導することが望ましいとコメントしている(「RBK」2018年9月10日)。
(高橋淳)
(ロシア)
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