大統領、「補償なし」の土地収用に向けた法案改正の意向を表明

(南アフリカ共和国)

ヨハネスブルク発

2018年08月07日

南アフリカ共和国のラマポーザ大統領は7月31日、自身が党首を務める与党・アフリカ民族会議(ANC)の会議後に、「補償なしの土地収用」を実行に移すべく、党として下院議会に修正法案を提出する意向を示した。修正法案の内容や提出時期について現時点では明らかになっていない。

南アでは、アパルトヘイト(人種隔離)時代に白人支配階級により強制的に土地を奪われた人々に対して、土地(主に白人所有の農地)を返還する「土地改革」政策が進められており、2014年には土地権返還法修正法案が可決された。しかし、与党ANCはジェイコブ・ズマ前政権時から、黒人への土地返還の加速を目的として、現所有者に対して補償なしで土地の収用を進めるべきだとの意向を表しており、国内で大きな議論となってきた。南アの人口約5,900万のうち約8割が黒人である一方で、2018年2月の南ア土地開発・土地改革省の発表によると、74%の土地を白人が所有する状況が続いている。

こうした中での今回のラマポーザ大統領の発言は、2019年に予定される下院選挙に向けたANCの支持基盤固めが目的であるのみならず、党内の派閥闘争への対処(関連ブラック ジャック ストラテジー)の一環でもあるとの見方が強い。国内の法律専門家も、補償なしの土地収用の断行に関しては強い懸念を示している。大手法律事務所ハーバート・スミス・フリーフィルのピーター・レオン弁護士らは「外国の個人・法人が所有する土地を補償なしに収用することは国際法に背くものだ」と警鐘を鳴らしている(「ビジネス・デイ」紙7月30日)。

親ビジネス派として期待の高いラマポーザ大統領の今回の発言に、市場は警戒感を示し、通貨ランドは翌8月1日に前日比2.4%の下落となった。なお、修正法案の可決には全下院議員の67%以上の賛成が必要だが、現在のANCの議席占有率は62.3%だ。

(高橋史)

(南アフリカ共和国)

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