大統領、民法学者のコンテ氏を首相に指名

(イタリア)

ミラノ発

2018年05月25日

セルジョ・マッタレッラ大統領は、五つ星運動(M5S)、同盟(Lega)の調整による推挙を経て、ジュゼッペ・コンテ氏を首相に指名した。今後、閣僚名簿の提出および大統領による承認、上下院による承認を経れば、正式に内閣が発足することになる。

ただし、従来は対立していた勢力同士の政策的妥協による連立を、フィレンツェ大学教授(民法)で弁護士出身のコンテ氏がまとめ、安定した政権運営ができるかが問われるほか、公約に財源的な裏打ちが乏しいとみられていることもあり、政権の安定運営などには困難が少なくないとみる向きも多い。

ユーロ離脱の可能性は低い見通し

順調に組閣・議会信任が進めば、M5SとLegaという反EU的な主張を持つ政党による政権が正式に樹立されることになることから、一部に、イタリアのユーロ離脱の可能性を指摘する向きもある。ただし、ユーロ離脱の国民投票実施には憲法改正(国際条約に関する国民投票の実施を禁ずる条項の廃止)が必要となり、加えて、EUの基本条約にはユーロを離脱する規定はなく、ユーロ離脱にはEU離脱が必要となるため、現時点では問題が深刻化する可能性は低い。

加えて、国民にユーロ離脱意欲が低いことや、公約にユーロ離脱の国民投票実施が含められていない点も挙げられる。民主党政権時代には野党として反ユーロなどを打ち出していた両党だが、総選挙では急進的な主張を抑えたことが得票を伸ばした理由の1つとも指摘されており、今後も同様の路線を取るとみられている。一方、反緊縮財政や難民政策に関する対EUの主張は強まる可能性が指摘される。

政権の安定運営は容易ではない、との指摘もみられる。M5SとLegaを合わせた議席数は上下院とも過半数を占めるとはいえ、特に上院では半数をわずかに超過しているだけで、政治の不安定化や停滞が懸念される。

産業界は欧州との関係安定や経済政策重視を要望

5月23日に開催されたイタリア産業総連盟の定例会議において、ビンチェンツォ・ボッチャ会長は、各業界の代表や大企業トップの意見を集約するかたちで新政権に対して、経済発展の重要性、EUとの良好な関係の維持、公約に関する財源の明瞭化、高速鉄道整備など欧州内のインフラ整備計画を論争の俎上(そじょう)に載せないこと、航空会社や金融機関の国有化否定、若年層の雇用対策実施などを要求した(「イルソーレ24オーレ」紙5月24日)。また、コンテ氏の首相指名が明らかとなった5月23日から24日にかけて、円の対ユーロレートは130円台から128円台へと約2円上昇した。イタリアの政治動向の金融市場への影響は過小評価できず、注意が必要だ。

(山内正史)

(イタリア)

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