通信大手の業績好調も、治安対策に伴う設備投資が重荷に

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2018年05月29日

ロシア通信大手のMTSは5月23日、国際会計基準(IFRS)による2018年第1四半期の連結財務諸表を発表した。売上高は前年同期比(注)3.1%増の1,079億ルーブル(約1,942億円、1ルーブル=約1.8円)、純利益は23.6%増の154億ルーブルと増収増益になった。データサービスへの需要増などを理由としている。

同じく業界大手で「ビーライン」ブランドを展開する通信ホールディングのベオン(VEON、前「ビンペルコム」)も5月14日、2018年第1四半期のIFRS連結財務諸表を発表した。ロシア国内での売上高は前年同期比2.9%増の663億5,000万ルーブル、利払い・税引き・減価償却前の利益(EBITDA)も4.7%増の252億400万ルーブルと増収増益だった。モバイルサービス(3.7%増、543億ルーブル)や機器・アクセサリー販売が売上高に寄与した。また、収益率を示すEBITDAマージンは38.0%で、0.7ポイントの微増だった。

同社では現在、携帯通信機器小売りチェーンのエブロセーチを自社ブランド「ビーライン」に統合中だ。同統合コストが利益を圧迫するも、統合完了後の2019年以降にビーライン店舗増加に伴う増収で利益率は改善する見込み。2018年第1四半期の統合コストは約6億ルーブルで、4月末時点で約800店を統合済み。

一方で、通信業界各社の収益見通しの重しとなっているのが、「ヤロワヤ法」の存在だ。同法は、下院副議長であるイリナ・ヤロワヤ氏を含めた一部の下院議員が提出し、成立した法律だ。テロ行為の未然防止などの治安維持を目的として、2018年7月1日から通信事業者に対し、音声通話とSMS(ショートメッセージサービス)記録について6カ月の保管を義務付ける。2018年10月1日からはインターネット通信データ(トラフィック)の30日間の保管が義務付けられる。

同法への対応で、通信事業者には多額の設備投資が発生する見込みで、ベオンは今後5年間の設備投資費用を450億ルーブルと試算している。MTSは同じく5年間で600億ルーブルとの試算を、5月23日に発表した。同日のMTSの株価は、設備投資の負担増により2018年通年の増収率が微増にとどまるとの予測から失望売りとなり、前日比で2.1%下落した。

(注)IFRSの算定基準が変更になったため、厳密には前年同期比とはならない。

(高橋淳、市谷恵子)

(ロシア)

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