政府はイラン核合意維持を強調するも、ビジネス後退は不可避
(英国、イラン)
ロンドン発
2018年05月11日
米国が5月8日にイラン核開発に関する「共同包括行動計画(JCPOA)」からの離脱を表明したことを受け、テレーザ・メイ英首相は同日夜、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と共同声明を発表した。
米国の離脱に対して遺憾と懸念を表明するとともに、英仏独3カ国は合意の履行を継続すると強調した。米国に対しては、合意に基づく核の拡散防止のため、あらゆる行動を取ることを要求。他方イランには、米国の決定に対して自制するよう促し、国際原子力機関(IAEA)の査察要求に従い、合意した義務を履行するよう求めた。
ボリス・ジョンソン外相も9日下院で、米国の決定に対する遺憾の意を表明。英国は合意から離脱しないことを強調し、イランが合意に基づき核開発を自制する限り、同国民が制裁解除の恩恵を享受できるよう、関係国・機関と協力する意向を示した。他方で外相は、イランによるミサイル実験と、同国が中東域内、とりわけイエメンとシリアを混乱させていることに対する懸念も表明。この点では「これまでも米国と一致している」と述べ、英国は今後も中東を不安定化させるようなイランの行動には対抗していくと明言した。米国や国内の対イラン強硬派にも配慮を示した格好だ。
しかし、英仏独やEUが米国を懐柔するのは極めて困難だ。英王立国際問題研究所アソシエイト・フェローのサナム・バキル博士は、「トランプ大統領のゼロ・サム的な決定によって、EUが影響力を発揮して合意を維持することも新たな交渉の土台を創出することも困難になった」と分析している。
英国など欧州企業のイラン向け事業は、2015年7月のJCPOA合意後も大幅に拡大してはいなかった。サイモン・ガス元駐イラン英国大使は2017年、王立国際問題研究所の機関誌への寄稿で、複雑な制裁ルールや過去に米国が銀行に課した莫大な制裁金が企業を警戒させていることに加え、イラン自体の複雑な経済構造が事業拡大を抑制しているとの見解を述べている(「ザ・ワールド・トゥデイ」2017年6・7月号)。
米国のJCPOA合意離脱を受け、英国など欧州主要国の官民挙げてのイラン取り込みが大きく後退するのは避けられない。
(宮崎拓)
(英国、イラン)
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