導入時期に不透明感が増すEV/HV振興策-メーカー各社は新車種投入を準備-
(ブラジル)
サンパウロ発
2018年03月29日
社会保障改革の遅れと2018年10月の大統領選挙を前に、電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)に対する工業製品税(IPI)税率引き下げと新自動車政策(ROTA2030)導入の時期に不透明感が増している。自動車メーカー各社は情勢を慎重に見極めながら、ブラジル国内市場へのEVやフレックスHVの投入準備を進めている。
最大の焦点はIPI税率の引き下げに
マルコス・ジョルジ商工相は1月23日に、IPI税率が優遇されるコンパクトカー(排気量1リットル台)について、EV、HVともに同率の7%とすることを明らかにしていた。法令は2月に大統領署名後、発効すると発表されていたが、法令の署名・発効時期は3月27日現在、依然として明らかにされていない。IPI税率引き下げが実施される場合、トヨタ「プリウス」(ハイブリッド)は14%から7%、EVのBMW「i3」は25%から7%となる。
一方で、ブラジルでのEVとHVの輸入関税は2015年10月27日に引き下げされ、EVは35%から0%、HVは35%からエネルギー効率および国内付加価値に応じて0%、2%、5%、7%のいずれかの関税が適用されるため、IPI税率引き下げが実現すれば市場価格への影響は大きい。
商工省はEVとHVの国内生産チェーン構築を狙うが調整難航
商工省は、(1)EV/HVに対するIPI税率の引き下げに加え、(2)2017年末に終了した「自動車産業イノベーション・科学技術・裾野産業振興プログラム(Inovar-Auto)」に続く、新自動車政策(ROTA2030)による研究開発税制恩典の供与と燃費向上、安全性、コネクティビティー、サプライチェーン強化策を立案、(3)国家電力庁(ANEEL)などが検討する充電ステーション整備促進策により、EVや、ブラジルで生産普及が進むバイオ燃料(エタノール)も利用可能なフレックスHVの市場規模を拡大し、ブラジル国内生産を促し、同生産サプライチェーンの構築を促す狙いがあった。
しかし、ROTA2030の発表は2017年7月以降たびたび延期され、社会保障改革が国会で成立後の2月末発表との観測があったが、いまだに発表・実施される見込みは立っていない。
当地報道や業界筋によると、財政難と社会保障改革が国会成立できないことなどを背景に、国内自動車産業に対する研究開発税制恩典の供与をめぐり財務省と意見が対立し、大統領官房庁が預かって検討しているものの発表に至っていないもようだ。ROTA2030は税制恩典抜きで発表されるとの観測や、導入時期は大統領選挙後に新政権が発足する2019年に持ち越されるとの見方もあり、一部の国内自動車メーカーは新規投資が困難になると発表している。ROTA2030の発表前に実施されるとみられていたEV/HVに対するIPI税率引き下げも、選挙への影響なども踏まえ、時期が不透明になったとの観測もある。
EV/HVの潜在販売台数は15万台を超える
ブラジル自動車工業会(ANFAVEA)によると、2017年のEV/HVの販売台数は3,296台と全体(217万5,986台)の0.15%にすぎない。一方で、ジェトゥリオ・バルガス財団(FGV)のエネルギー研究センターであるFGVエネルジアの2017年5月報告書によると、ブラジルでのEV/HVの潜在的な販売台数は、2016年の販売台数全体の7%に相当する15万台超としている。
自動車メーカー各社は、IPI税率引き下げの時期を慎重に見極めながら、ブラジル市場へのEVやフレックスHVの投入準備を進めている。特に、IPI税率引き下げが販売価格に与えるインパクトが大きいことから、各社は販売予定価格の発表には慎重になっている。
当地報道によると、各社が今後、ブラジル市場への投入検討を進めるEV/HV車種としてはGM「ボルト」、トヨタ「プリウス・フレックス」(試験運転)、日産「リーフ」「ノート」e-Power(試験運転)、ボルボ「XC60 T8」、ルノー「Kwid」、VW「e-ゴルフ」「GT-E」、現代「アイオニック」、チェリー「New QQ」、BYD「e5」などの名前が挙がっている。
(大久保敦)
(ブラジル)
ビジネス短信 e3b2cd3fb0aba28b