ITやデジタル技術の可能性の広がりに注目-世界最大の医療機器見本市「メディカ」開催(2)-

(ドイツ)

ヘルスケア産業課、デュッセルドルフ発

2018年01月18日

メディカ(MEDICA)は世界医療市場の最新技術が発信され、また、最新動向を把握する場として重要な役割を持っている。特に、医療産業におけるITやデジタル技術活用に各国医療機器メーカーの関心が集中する様子が見て取れた。連載の後編はメディカにおけるITやデジタル技術のトレンドを紹介する。

ITの力で診断が効率的に

メディカは、医療機器産業で、今後有望視される技術や市場を知る上でも重要な見本市だ。2017年11月13~16日にドイツ・デュッセルドルフで開催された今回のメディカは、ITやデジタル技術を活用した医療に注目が集まった。ITやデジタル技術の活用により、診断や治療をする側、される側の双方が、医療にかかる時間を大きく節約できるというメリットがある。会期中に開催されたカンファレンスでは、AIや3Dプリント技術、インターネットなどのデジタル技術を医療の効率化に生かすことなどを議論する多くのセッションが行われた。医療分野におけるIT技術を紹介する「ヘルスITフォーラム」やモバイルヘルス(mHealth、注1)の最新動向を紹介する「コネクテッド・ヘルスケア・フォーラム」が目玉カンファレンスとして実施され、スタートアップからシーメンス、SAP、ボーダフォンといった大手企業までが登壇し、現在と将来の市場について語った。

ブラック クイーン ブラック ジャック通信技術に分類される出展者は386社で、その他の出展者もITの可能性を追求するさまざまな製品やサービスを紹介していた。医師の診断を効率化する技術を会場で紹介していたのが、生体ブラック クイーン ブラック ジャックモニターや超音波診断装置を製造する中国医療機器大手ミンドレイ(mindray)だ。同社が開発したプラットホーム「BeneVision」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、麻酔器や輸液ポンプ、人工呼吸器など独立した複数の機器のデータを別々の画面ではなく、1つの画面で確認できることを可能にする。スピーディーで正確な診断により、医師はより多くの時間を患者の診断や治療に使うことができる。

写真 大規模モニターで注目を集めたミンドレイのブース(ジェトロ撮影)

ITの力で診断そのものを自動化する試みは、医療業界で注目を集めている。人工知能(AI)技術を使った画像分析によるがん自動発見などについては、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンやイタリアのバーリ大学など、欧州各国の機関で研究が進んでいるという(「EuropeanHospital@MEDICA」誌2017年11月14日)。

ITで医療により簡単にアクセス

患者にとっては、ITやデジタル技術の活用で、より簡単に医療にアクセスができるようになる。今回のメディカで初めて設けられたデジタルヘルス分野のベンチャー企業専用ゾーンには、フィンランド企業バディヘルスケア(Buddy Healthcare)が出展し、手術を控えた人に術前、術後に患者自身がしなければならない手続きを案内する「バディケア」(BuddyCare)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますアプリを紹介していた。これにより、患者は病院に行かなくてもモバイル端末を通して、問診票への回答のほか、注意事項や手術の流れについて確認できる。医者も、患者の状況をオンラインで見ることにより、必要に応じてリマインダーの通知などを患者に送ることができる。メディカに参加していた同社の最高営業責任者マルクス・リンド氏に聞いたところ、同社の技術はフィンランド国内はもとよりドイツの病院への導入も始まり、今後は他国への展開も検討しているという。

ドイツのモバイルヘルス市場が急成長

また、国を挙げてヘルスケア分野におけるITやデジタル技術の活用促進を進めているドイツでは、多くの先進的な企業が輩出し、注目を集めている。

経営コンサルティング大手A.T.カーニーが2013年に発表したレポートによると、ドイツ国内のモバイルヘルス市場の年平均成長率は2012年以降約22%で、市場規模は2017年に30億ユーロに達すると予測していた。ドイツIT・通信・ニュースメディア産業連合会(BITKOM)が2017年5月に発表した調査によると、ドイツ国内では45%の人が既に健康関連アプリを使用し、さらに現在は使用していないが今後使うことになるだろうと考える層も45%あるという。つまり、こうしたアプリに親和性を感じる層は9割に達する。

IT技術を活用した診察や治療は増加している。例えば、ドレスデン工科大学がドイツ全国の眼科医と共同開発した弱視治療用オンラインゲーム「カテルナ」(CATERNA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、病院に行かずにパソコンで楽しみながら治療ができる。一般的な治療方法である遮閉訓練(注2)を、子供の年齢に合わせたオンラインゲームで行うことにより、効果的に視力が改善されるという。既にドイツ全国の250以上の眼科で利用され、700人以上の患者の利用実績がある。

また、ドイツのパティエントゥスは、遠隔地に住む患者でもオンラインで医者の診断が受けられるポータルサイト「パティエントゥス」(Patientus)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(社名と同じ)を提供している。モバイル端末の利用が、医療をより身近なものにしつつある。

ちなみに、カテルナは2014年から、パティエントゥスは2017年から、ドイツの公的保険適用対象のサービスとなっている。

(注1)スマートフォンなどの携帯端末などを通じて治療や診断を行うこと。

(注2)視力の良い方の目にアイパッチを付け、視力の悪い方の目で見る練習。

(宮崎アナスタシア、一二三達哉)

(ドイツ)

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