不当解雇にかかる損害賠償金に上限設定-改正労働法が発効(2)-

(フランス)

パリ発

2017年10月17日

9月23日に発効した改正労働法では、労使関係の法的安定性の確保(解雇の簡素化、不当解雇の賠償金の上限設定など)、ブラック ジャック ランキング、企業内の労使間協議に係る制度の簡素化などが改革の柱となる。連載の後編。

損害賠償金の上限は最高で給与の20カ月分

今回の労働市場改革の柱は、(1)労使関係の法的安定性確保(解雇の簡素化、不当解雇の賠償金の上限設定など)、(2)ブラック ジャック ランキング、(3)企業内の労使間協議に係る制度の簡素化などだ。

労使関係の法的安定性の確保については、まず、解雇など契約終了に関する労働裁判所の提訴期間を最長2年から1年に短縮、解雇の手続きを熟知していない中小企業向けに解雇通知の様式を定める。

不当解雇に関する労使争議に関しては、損害賠償金に上限と下限を設ける。上限は、勤続1年未満は給与の1カ月分とし、原則として、勤続10年目まで1年ごとに1カ月分の給与を上乗せ、勤続11年目以降1年ごとに0.5カ月分を上乗せる(表1参照)。勤続29年超の賠償金の上限は20カ月とする。下限は、勤続1年で給与の1カ月分とし、2年を超える勤続の場合、給与の3カ月分とする。

表1 勤続年数に応じた損害賠償の下限および上限(単位:給与の月数)

0年~15年
勤続年数 損害賠償
下限 上限
0年 なし 1
1年 1 2
2年 3 3.5
3年 3 4
4年 3 5
5年 3 6
6年 3 7
7年 3 8
8年 3 8
9年 3 9
10年 3 10
11年 3 10.5
12年 3 11
13年 3 11.5
14年 3 12
15年 3 13
16年~30年以上
勤続年数 損害賠償
下限 上限
16年 3 13.5
17年 3 14
18年 3 14.5
19年 3 15
20年 3 15.5
21年 3 16
22年 3 16.5
23年 3 17
24年 3 17.5
25年 3 18
26年 3 18.5
27年 3 19
28年 3 19.5
29年 3 20
30年
以上
3 20

(出所)労働者関係の予見性と保護に関する2017年9月22日のオルドナンス2017-1387

従業員11人未満の企業に対する損害賠償金の下限は、勤続1年で給与の半月分とし、その後勤続10年まで2年ごとに半月分の給与を上乗せる(表2参照)。

表2 勤続年数に応じた損害賠償額の下限
(従業員11人未満の企業の場合)(単位:給与の月数)
勤続年数 損害賠償
0年 なし
1年 0.5
2年 0.5
3年 1
4年 1
5年 1.5
6年 1.5
7年 2
8年 2
9年 2.5
10年 2.5

(出所)労働者関係の予見性と保護に関する2017年9月22日のオルドナンス2017-1387

他方、解雇の法的最低補償金額については、9月25日付の政令(デクレ)で勤続10年までの額を、勤続1年に対しこれまでの給与1カ月分の20%から25%に引き上げた。

多国籍企業のフランス子会社が経済的な理由により国内で解雇する場合、これまでは親会社など海外の事業所も含めて判断され、不当解雇と見なされることが多かったが、今回の労働法改正により、その判断の基準をフランス国内の業績に限定する。

損害賠償金は、中小企業にとっては特に大きな負担となる。これまで労働裁判所の判決で多額の損害賠償金の支払いを認めるケースが多くみられ、それが雇用を控える原因になっているとして、経営者団体は損害賠償金の上限の設定を要求していた。また解雇の手続きや解雇理由が不当だとして提訴されるケースも多く、損害賠償金に上限を設定することで、数年かかることも多い労働争議の提訴を抑止する目的もある。

労使協約の優先順位を明記

労使協約については、優先順位を法的に明記した。従来、業界協約が企業協約に優先するとされていたが、今回の改正で、業界協約が企業協約に優先する対象を(1)職務・等級別最低賃金、(2)職務・等級の分類、(3)労働組合の運営資金の運用、(4)職業訓練基金の運営、(5)労働者に義務付けられている補足的健康保険、(6)パートタイムの労働時間、(7)期限付き・派遣労働契約、(8)プロジェクト雇用契約(注)、(9)男女間の平等、(10)試用期間、(11)企業間における労働契約の転移と規定した。

(1)重労働の防止、(2)身体障害者の雇用、(3)組合代表、(4)危険・非衛生手当については業界団体の協約に明記されている場合のみ、業界協約を優先とする。それ以外は企業協約が優先される。

企業は「企業の運営または雇用の保護・拡大」のために、企業レベルで労働時間、報酬、異動および地理的範囲を超える移動について、労使の合意書を締結できる。従業員の過半数の合意があれば、雇用契約の内容を変更できる。また、企業は合意内容を拒否する従業員を「真実かつ重大な(解雇を避けられないほど深刻な)理由」に該当するとして解雇することができる。

中小企業にも団体協約の締結を可能にした。雇用主と団体協約のために協議できる労働者は、労働組合代表または組合に委任された従業員代表に限られているが、50人未満の企業では従業員代表が直接交渉できると規定した。従業員20人未満の企業で従業員代表がいない場合は、雇用主から従業員に合意の内容を提案できるものとし、従業員の3分の2の合意があれば成立する。

企業内の従業員代表制度を一本化

改正労働法では、労使間協議の簡素化に向け従業員の数により異なる従業員代表の制度を「社会経済委員会」として一本化する。これまで、従業員が11人以上の企業は従業員代表を、また50人以上の企業は企業委員会、衛生・安全・労働条件委員会の設置が義務付けられ、その代表の数も従業員数により異なっていた。また従業員の過半数の労組の合意があれば、企業内協約を含めて雇用主と協議できる従業員代表「企業諮問委員会」を設置することも可能とする。

従来は、従業員代表は雇用主へ苦情や申し立てを行い、企業委員会は従業員の福利厚生、経営の情報提供や諮問を行うが、衛生・安全・労働条件委員会は、労働者の安全確保と労働環境を保護する機関であり、任務が異なる。従業員数により委員会の設置義務や委員の数が異なるため、企業が境界線となる50人や300人などを超えないよう雇用を制限するなどの弊害がみられたほか、大企業にとっては各機関との協議に時間を割かなければならず効率的でなかったとして、今回の見直しに至った。

労使の合意で集団の退職が可能に

従業員に辞職する意思があり、雇用主も雇用契約の解消を望んでいる場合、労使間の合意により契約を解消できるが、今回の改正により、新たに同様の措置を集団の退職の措置としても活用できるよう定めた。希望退職者の数、補償金などの条件、転職を容易にする措置などについて従業員の過半数の合意を得ることを条件に、労働局の承認を得た上で集団の契約を終了できるものとする。これまで早期優遇退職は実施されてはいたが、労働法による規定はなかった。

同措置による契約終了の場合、従業員は失業手当の給付を受給することが可能で、雇用主にとっては労働裁判所へ提訴されるリスクが少なくなる。これまでは、従業員50人以上の企業が30日以内に10人以上の従業員を希望退職によりリストラする場合、判例を基準として「雇用救済計画」の作成を義務付けられていたが、今後は不要となる。

(注)今回の改正で、業界レベルで規定となる項目に新たに「プロジェクト雇用契約」が付け加えられた。「プロジェクト雇用契約」はこれまで建設業界に限定されていたが、他の業界も団体協約で規定すれば使用可能となる。「プロジェクト雇用契約」はプロジェクトの終了をもって契約の終了日とする雇用契約で、「有期労働契約」の最長18カ月の期限を超える労働も可能となる。

(奥山直子)

(フランス)

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