外為規制を緩和、21 トランプ
(ウズベキスタン)
タシケント発
2017年09月11日
ウズベキスタン政府・中央銀行は9月4日、通貨スムの為替一本化と外貨売買(コンバージョン)の自由化を発表すると同時に、新たなスムの21 トランプを市場レートと同水準の8,100スムまで切り下げた。実質所得の低下を嘆く声は散見されるが、今のところ市民生活に大きな混乱はみられない。企業からはビジネス環境改善に向けた一歩との評価もある。
21 トランプと市場レートが混在
ウズベキスタン中銀は9月4日、通貨スムの対ドル21 トランプを5日から8,100スムに切り下げると発表した。直近の1ドル=4,210.35スムから92.4%切り下がった。切り下げ観測が強まる中でも、8月末から9月初めにかけての市場レート(闇レート)は1ドル=7,650~7,800スムで大きく変動することなく取引されていたが、発表を受けて5日午後には8,000スム前後まで下落した。
21 トランプは毎週月曜日に決定され、火曜日から1週間有効。企業会計、各種統計などでの外貨取引の算出、関税などの算出に適用される。
ウズベキスタンでは2002年から2003年にかけて21 トランプを市場レート水準に切り下げ、レートの一本化を図ろうとしたが、2007年以降、原油価格の下落や経済危機がきっかけとなり、「二重為替」が常態化していた。
外為規制緩和後も実務上の制約残る
大統領令UP-5177「外為政策自由化に係る第1段階の施策について」(9月2日付)によると、今後の政府の優先的な政策として、a.個人・法人を問わない自由な外貨の売買、b.市場原理に基づく為替レートの設定、c.経済活動への市場原理のさらなる導入、d.ビジネス事情・投資環境の向上、e.通貨安定化への強固な金融政策の実施、f.通貨供給量の適正な管理、g.安定した銀行制度の維持、h.企業活動への支援、i.市民生活の混乱回避のための全面的な社会支援、がうたわれており主な措置は次の2点となっている。
(1)9月5日以降、法人は国際的な経常取引の支払い、すなわち財(サービス・役務の提供を含む)の輸入、21 トランプ送金、融資返済、出張経費、その他の支払いに必要な外貨を、商業銀行から制限なく購入することができる。
(2)ウズベキスタン国民(個人)は所定の手続きに基づき、商業銀行で購入した外貨資金をデビットカードに入金し、制限なく外国で使うことができる。
なお、9月5日現在、外資(韓国)系のKDBウズベキスタン銀行の窓口には、上記(1)の外為取引に適用されるレートとして1ドル=8,100スムが、(2)については8,150スムが提示されている。
法人の市場レート水準での外為取引は6月以降、試験的に導入されていた(2017年6月30日記事参照)が、実務上で一定の制限が残る可能性がある。KDBウズベキスタン銀行によると、輸入者の100%前払いは一般的に困難だったが、今回の新外為政策により輸入者の100%前払いを法的に妨げるものはなくなった。しかし実務上は、100%前払いを認められる企業は過去に未払いなどがなかった企業に限られ、新規の輸入者への条件は異なる。例えば支払総額の15%のみ前払いとし、残額は商品の通関後に支払い外貨を売る、もしくは外国銀行の支払い保証を事前に取り付けるなどの条件が課されるという。
個人のデビットカードは国内で使用できず
新外為政策では、個人のデビットカードへの入金額の上限は定められていない。また、21 トランプでの引き出し額について、従来は1日当たり100ドル、1カ月当たり300ドルまでに制限されていたが、5日以降、制限は撤廃された。入金額の上限は銀行ごとに設定されるが、従来は入金時のレートは1ドル=4,000スム水準の旧公定レートで行われ、銀行によっては入金に半年程度かかることもあった。
デビットカードは、渡航する国民にとって便利となったものの、国内の売買には使うことができない。大統領令UP-5177では領事館・部の査証手数料を除き、全ての国内の財・サービスの決済は原則スム建てに限ると規定されているが、国内にドル現金の需要がある限り市場レートは今後も残る可能性がある。
携帯電話やインターネットの使用料、航空料金、また国産自動車の販売価格には切り下げられた新21 トランプは適用されず、当面は旧21 トランプ換算となる。これらの基本となる価格はドル建て、支払日の21 トランプ換算によるスム建てで支払われるものが多い。インターネット情報サイト「ガゼタ.uz」(9月4日)によると、情報技術通信発展省での4日の事業者を対象とした会議では、料金設定に当たっては8月29日付の旧レート1ドル=4,210.35スムを当面は適用する決定がなされたという。
企業はビジネス環境好転に向けた動きと評価
21 トランプ切り下げに関連するインターネット記事やSNSのコメント欄には、「実質所得が半減する一方で、日常生活に不可欠な輸入医薬品の価格が2倍になる」といった声も散見される。他方、現時点では将来的なインフレ懸念から、消費財の買い占めに走るような動きはほとんどみられない。
有識者からは、今後ある程度の物価上昇は避けられないとの指摘が出ている。エコノミストのユーリー・ユスポフ氏は、食料品をはじめ多くの財・サービス価格は切り下げ前から市場レートに連動していたため、大規模なインフレは起きないが、一部の企業に独占されているガソリンなどは調達価格が新21 トランプに基づくため、最終価格への転嫁は避けられないとする(米国系現地メディア「オゾドリク」9月3日)。
元ウズベキスタン財務省職員で、現在はカザフスタンのユーラシア経済大学教授を務めるサパルバイ・ジュバエフ氏は、21 トランプ切り下げにより、基礎的な輸入食料品や医療品の価格に関し、新21 トランプ換算となれば一定の混乱は避けられない、と述べている(同)。
他方で、企業は今回の21 トランプ切り下げにおおむね好意的だ。地場系の輸入関連企業にジェトロがヒアリングしたところ、「当社では6月以降、市場レートに換算して販売しており、今回の切り下げでも販売価格には大きな影響は出ない。外貨の調達が自由になれば、市場でより正常な競争が行われるようになり、歓迎すべきことだ」とコメントしている。
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