ハリケーン「イルマ」、フロリダの観光や農業に打撃-州の経済損失は830億ドルの見込み-

(米国)

アトランタ発

2017年09月22日

大型ハリケーン「イルマ」が9月10日、フロリダ州に上陸した。州政府による警戒態勢もあって想定を上回る混乱や被害はみられなかったものの、復旧にかかる費用は史上2番目の規模とされ、主要産業である観光や農業をはじめ州の経済損失は830億ドルに上るとみられている。

日系企業への影響は軽微

ハリケーン発生時の規模としては最大級の「カテゴリー5」となった「イルマ」は、米国南東部のフロリダ州とジョージア州で非常事態宣言が発動されるなど、大きな打撃を与えるのではと懸念されていた。しかし、上陸時には「カテゴリー4」だったフロリダ州、熱帯低気圧に変わったジョージア州においても大規模な被害はみられなかった。在マイアミ日本総領事館の荻原孝裕首席領事は「州内の日系企業は、停電や浸水などで一時閉鎖していたところはあったものの、企業活動に多大な影響を及ぼすような被害は報告されていない」と話した。

ハリケーン発生後1週間以内に請求された保険金額20億ドルのうち8~9割は住宅損壊に対する請求だというが、フロリダ半島沿岸部の高層住宅や高級住宅のほとんどは2002年の新建築基準法制定以後に建設されたか、2005年のハリケーン「ウィルマ」による被害を受けて補強されているため、「イルマ」における目立った被害はないという。

不動産業界では過熱気味の不動産市場の冷え込みを心配する声もあったが、逆に「イルマ」の直撃で建物の耐性が示されたとして、購入希望者からの問い合わせが絶えず、特に新築物件への人気が高まったという。ただし、住宅ローン会社や買い手による物件再検査や新築物件の工事遅延により、引き渡し時期の遅延は避けられないようだ。

復旧費用は史上2番目の規模に

1992年の景気低迷期のハリケーン「アンドリュー」では、フロリダ州の雇用が回復するのに9カ月を要したとされるが、2004年以降、不動産ブームの中での数度のハリケーンでは、1カ月ほどで雇用は回復している。州の8月の失業率は4%、雇用状況も全米平均を上回るなど好景気が続いており、停電や道路・下水などのインフラ復旧が行われれば短期間で経済は回復すると期待されている。

とはいえ、700万人に退避命令が出され、州内のビジネス活動が一時停止したことによる経済的損失は税収減にもつながり、復旧に要する支出により州財政は厳しくなるとみられる。州によると、復旧に要する支出総額は、2005年の「ウィルマ」の250億ドルを上回り、1992年の「アンドリュー」の460億ドルに次ぐ規模になる見込み。

特にフロリダ州最大の産業で、歳入の13%を占める観光業の収入減の影響は大きく、今後の観光施設の再開時期が州経済や州財政を左右しかねないと注目されている。「ウォルト・ディズニー・ワールド」はハリケーン通過の翌日から、他の主要テーマパークやクルーズも1週間以内に営業を再開したが、被害の大きい地域や観光施設では営業再開に数週間要するところや、まだ再開のめどが立たないところもある。

さらに観光に次ぐ産業の農業も、ビニールハウスの損壊、倒木、果実の落下、畑や牧草地の浸水など大きな打撃を被った。中でもハリケーンの進路となった州南西部から中央部では、かんきつ類を栽培している地域への打撃は大きく、過去最大級の被害といわれている。

フロリダ州全体の経済的損失は830億ドルに上るともいわれ、8月末にテキサス州を直撃したハリケーン「ハービー」と合わせた米国経済への影響は、第3四半期のGDPを0.4~0.8%下押しすると予想されている(ゴールドマン・サックス、オックスフォード・エコノミクスなどの予測)。

(ラマース直子)

(米国)

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