ミラノ、英国からの金融機関など誘致に意欲

(イタリア、英国)

ロンドン発

2017年07月27日

在英イタリア大使館は7月3日、ロンドンで「ミラノへの道-変化する国際金融情勢におけるイタリアの新しい法制」と題するセミナーを開催し、金融関係者ら約50人が参加した。パスカル・テラチャーノ駐英大使はあいさつで、「英国のEU離脱(ブレグジット)は数多くの不確実性をもたらす一方で、ミラノのような都市には多くの機会をもたらす」として、ロンドンに立地する金融機関や欧州医薬品庁(EMA)の移転候補先としてのミラノの優位性を訴えた。

EU離脱で英国の金融機関は分散の可能性

テラチャーノ大使は、EU離脱によって英国が金融業の「EU単一パスポート」制度の対象外になった場合、英国でパスポートを取得している金融機関はEU加盟国内での事業拠点の開設や認可取得が必要だとした上で、「現在のロンドンの金融センターとしての機能を1つずつ移転して、完全な複製をつくり上げることは不可能」とし、どこかの都市にロンドンの金融機能が丸ごと移るのではなく、特定の金融機能のみがそれぞれ部分的に優位性の高いEU加盟国に移る「フラグメンテーション(分散化)」のシナリオの可能性が高いとの見方を示した。その上でイタリア、特にミラノはアセットマネジメント、プライベートエクイティー、フィンテックの3分野に特化して誘致に取り組みたいと述べた。

イタリアは近年の経済改革に伴い、経済は回復に向かいつつある。金融や労働市場改革を進め、非居住者に対する税制改革など高度人材の誘致にも力を入れており、スタートアップ企業にも適したビジネス環境の整備に取り組んでいる。また、ミラノは空港が3カ所ありアクセスが良いこと、国際的な大学やインターナショナルスクール、近代的な研究センターや技能訓練センターなど、多国籍企業にとっても活動しやすい環境が整っていると、その優位性をアピールした。

同大使は、欧州医薬品庁(EMA)の誘致競争についても「良い位置に付けている」として、ミラノ市は中心部にある高層ビル「ピレローネ(Pirellone)」をEMAの本拠地として提供する用意があるなど、自治体や政府・産業界全体で誘致に積極的に取り組んでいると述べた。

続いて、イタリアの法律事務所ボネリ・エレーデのマッシミリアーノ・ダヌッソ氏が、浮動担保(フローティングチャージ)や担保権実行に関する法改正など、イタリアにおける企業融資に係る最近の法改正について説明した。同氏は、イタリアは官僚主義的で複雑な規制・制度、司法手続きの遅さなどの悪評で投資家から敬遠されている面もあるとしつつ、こうした法改正はイタリアの銀行や企業にとっての可能性を広げるもので、投資環境の改善を示すサインだと述べた。

優遇税制や労働市場の柔軟性をアピール

パネルディスカッションでは、イタリア経済財政省のファブリッツィオ・パガーニ氏やミラノ市のアラベラ・カポレロ氏、J.P.モルガンのアレッサンドロ・バルナバ氏らが投資環境について意見を述べた。

パガーニ氏は、2017年の政府予算に法人税制や個人所得税、労働法など一連の改革案をパッケージとして盛り込んだと説明。法人税や所得税の引き下げなどの優遇税制に加えて、レイオフ(一時解雇)関連の法制など労働法改革を進めており、ドイツやフランスと比べてイタリアの労働市場の柔軟性は高いと主張した。

カポレロ氏は、ブレグジットは金融のニッチな分野をミラノに誘致する好機だと述べ、金融センターとしてブラック ジャック オンライン投資を誘致するため、10~20年先を見据えた中長期的な戦略を立てて、政府と共に環境整備に取り組んでいく意向を示した。

2018年にかけて数千人を英国から移転

J.P.モルガンのバルナバ氏は、英国の事業環境は素晴らしく、誰も英国を離れたいとは思っていないとしつつ、「ハードブレグジット」となった場合は、EU単一パスポートの喪失にとどまらず、単一市場へのアクセスや人材の流動性が確保できなくなるため、事業の移転が必要となると説明。英国がEUとの離脱協定に合意できず、クリフエッジ(崖っぷち、その後の空白期間の意味)が生じる可能性も大きなリスクとしてあり、いずれにせよ2018年にかけて数千人規模の人員の移転を進めなければならないとした。

J.P.モルガンは、基本的にはフランクフルトを欧州の本拠地とするものの、事業および人材の配置は未定としている。バルナバ氏は、移転先の選定に当たり重要視するポイントとして、(1)政治的安定性を含むマクロ経済環境、(2)規制当局、(3)司法制度、(4)労働法制、(5)税制、(6)生活の質(QOL)を挙げた。

ミラノについては、ダブリンや他都市と比べてQOLは高いと指摘。一方で、政治的な不安定性の問題や労働法は、改革の方向性は正しいものの余剰人員整理のコストが高い点が問題として、「第2グループ」に位置していると述べた。ドイツはマクロ経済は最高水準だが労働法が問題で、フランスもマクロン大統領が誕生するまでは政治的不安定性を問題視していたが、選挙後は「第1グループ」に浮上したと説明した。J.P.モルガンは現在、ミラノの拠点で160人を雇用しているが、研修のハブなどをミラノに移転することになれば、陣容を倍増させる可能性もあると述べた。

また、バルナバ氏は将来の展望として、5~10年の期間でみれば、欧州のどこかに新しい金融センターが生まれているのではないか、との見方も示した。

(佐藤丈治)

(イタリア、英国)

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