党首選でバラッカー社会保護相が勝利、新首相就任へ

(アイルランド)

ロンドン発

2017年06月06日

与党・統一アイルランド党の党首選挙の開票が6月2日に行われ、レオ・バラッカー社会保護相がサイモン・コーブニー住宅相を破り、新党首に就任した。バラッカー党首は、議会の承認を経て、6月半ばにも新首相に就任する見込み。

議員からの圧倒的な支持を獲得

統一アイルランド党では、首相を務めるエンダ・ケニー党首の辞任を受け、5月半ばから党首選挙が続けられてきた(2017年5月19日記事参照)。バラッカー社会保護相とコーブニー住宅相との間で舌戦が展開され、6月2日に行われた開票の結果、バラッカー氏が有効投票の60%の支持を得て新党首の座を射止めることとなった。同党の党首は、議員(上下両院議員、欧州議会議員)、地方議会議員(councillor)、一般党員の投票により選出されるが、議員票に重みを付けた投票制度が採用されている。バラッカー氏は73の議員票のうち51票を獲得し、議員からの信任の高さが勝利につながった。

38歳と若いバラッカー氏は、インド系移民を父親に持つ。また、自身が同性愛者であることを公表するなど、その経歴は伝統的なリーダーのそれとは異なる。異色の経歴を持つ中で勝利を収めたことを踏まえ、バラッカー氏は、開票後のスピーチで「私の勝利はこの国に偏見がなく、アイルランド人が人種や信条で差別をするような国民ではないことの何よりの証左だ」と述べた。

新党首となったバラッカー氏は、議会の承認を経て6月半ばまでに新首相に就任すると見込まれる。独立系議員や共和党などと連携・連立の枠組みを維持する考えで、今後、組閣に向けた調整が進められることになる。

ブレグジットや内政に課題が山積

バラッカー氏にとっての喫緊の政策課題は多い。まず、英国のEU離脱(ブレグジット)への対応だ。英国では6月8日に総選挙が予定されている。欧州委員会で対英交渉の総責任者を務めるミシェル・バルニエ首席交渉官は、6月19日の週から本格交渉を開始するとともに、交渉状況について6月22~23日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)で報告する意向を示している(EU理事会、ブラック ジャック)。この欧州理事会は、バラッカー氏にとって首相として他のEU加盟国のリーダーと顔を合わせる初めての機会となる。アイルランドにとって死活問題ともなる英国・北アイルランドとの国境自由化の取り扱いについて、自らの考えを十分に反映していくためにも、この機会を利用して他のEU加盟国と円滑な関係を築きたいところだ。

また、北アイルランドの政治が早期に安定化できるかどうかも注目される。2017年2月に議会が解散して以降、北アイルランドでは政治運営体制が構築できていない状況にある。英国政府は6月29日までの体制構築を求めていたが、総選挙の影響で、これまで共同自治を行ってきたプロテスタント系の民主統一党(DUP)とカトリック系のシン・フェイン党の協議は進んでいない。バラッカー氏は首相就任後直ちに英国のテレーザ・メイ首相との間で解決に向けた意見交換を行うとみられ、アイルランドとしての立場を明確にすることが必要となる。

また、内政に目を転じると、連立を組む共和党は、住宅不足への対応や健康サービスの提供、教育への投資、公共インフラ整備などで、統一アイルランド党の取り組みが極めて不十分、と指摘している。一方で、公共サービス従事者への給与支払いが政府財政を圧迫している。バラッカー氏は、議会の早期解散を否定したが、共和党や独立系議員からは早期の解散総選挙を期待する声も聞こえており、着実に成果を積み上げていかないと、連立政権内部の不和が表面化することにもなりかねない。

(佐藤央樹)

(アイルランド)

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