全米商工会議所、トランプ大統領の通商政策で発言-国際政策部副部長が在外公館関係者らに講演-

(米国)

ロサンゼルス発

2017年03月06日

 全米商工会議所のジョン・マーフィー国際政策部副部長は2月15日、ロサンゼルス商工会が開催したイベントで、トランプ新政権の貿易政策に対する全米商工会議所の提言や新大統領と議会への期待について講演した。イベントには約40ヵ国・地域の在外公館関係者や貿易機関関係者が招かれ、環太平洋パートナーシップ(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)についても発言し、講演後には意見交換が行われた。

<米国にとっての貿易の重要性を強調>

 全米商工会議所は、約300万社の企業と全米にわたる州・自治体の商工会議所のネットワークを持ち、政策提言活動を行う。マーフィー副部長は、貿易は米国に大きな経済効果をもたらす機会だと強調。米国の輸出は2009~2014年に50%伸び、カナダ、メキシコ向け輸出は2,000億ドル増加した。国際貿易により4,100万人の雇用が支えられているほか、製造業に従事している1,200万人のうちの半分は輸出関連企業に従事しているという。

 カリフォルニア州の480万人の雇用は貿易に支えられており、7万2,000社の中小企業が輸出に関わる。商務省のデータによると、2015年のカリフォルニア州の輸出額は1,654億ドルとなり、同州の輸出相手国の1位がメキシコ、2位がカナダ、3位が中国、4位が日本だった。

<TPPやNAFTAについても指摘>

 マーフィー副部長は、トランプ大統領の通商政策の行方について言及した。TPPについて、トランプ大統領は「米国の政治家が米国の労働者を売り渡した裏切り行為」という悲観的な見方をし、TPPの離脱を表明したと指摘した。そして、世界の中間層(ミドルクラス)の3分の2がアジアに集中していることや、アジアの貿易障壁が米国製品の消費を妨げているなどの現状を分析し、アジア域内だけの協定は米国に不利益であり、今後の通商政策について戦略的な計画が必要だと述べた。

 また、米製造業を衰退させるとしてTPPからの撤退につながったが、貿易が製造業の雇用を奪ったのではなく、新たなテクノロジーの発展や自動化により雇用が失われている現状を見つめ直す必要があると指摘した。

 NAFTAに関しては、カナダおよびメキシコが米国にとって主要輸出相手国であることから、再交渉もしくは撤退が行われた場合、1,400万人の雇用に大きく影響する可能性があることを指摘した。マーフィー副部長によると、トランプ大統領はNAFTAの欠陥を示唆し、20%の国境調整税をメキシコに課そうとしているが、今後メキシコとの2ヵ国間交渉の中で米国に不利が生じる可能性も高いと指摘する。

 大統領には、関税の引き上げを試みる権利があるものの、実際はこれらを短期間で施行させることは難しい。20世紀初頭に関税の改正案が議会に持ち込まれ、最短90日間で大統領令となった例もあるため、大統領の権限で関税が引き上げられる可能性はある。しかし、議会を通さなければならないことから、大統領が独断で施行に持ち込むことは制限される。また、多くの自動車メーカーが米国とメキシコ間で貿易を行っているため、関税引き上げで悪影響を受けることになると指摘した。

<「米議会の通商政策への取り組みには時間かかる」>

 マーフィー副部長によると、トランプ政権を支持する国民は、テロ防止や移民問題といった国の安全保障に対する課題への関心が高い一方、貿易問題への関心は非常に低いという。このような状況を踏まえると、議会では移民政策などの取り組みが優先される可能性が高い。国境調整税やNAFTAの再交渉・脱退といった通商政策への取り組みにはまだ時間がかかるとみている。

 また、「外国政府関係者や団体は何ができるか」という質問に対して、「日本の安倍晋三首相がトランプ大統領と会談したことが良い見本で、日本の製造業が米国経済にとって重要であることをきちんと大統領に伝えた。このようなアプローチはとても影響力があったと思う」と述べた。

(サチエ・ヴァメーレン)

(米国)

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