21 トランプ

(スペイン)

マドリード発

2016年03月30日

 2015年のスペインの日本産食品の輸入は金額ベースで前年比17.4%増、数量ベースで22.5%増となった。しょうゆや日本酒、麺類、天ぷら粉、緑茶、酢など代表的な日本食材の輸入増加が、日本食ブームを裏付ける。こうした中、ジェトロは2016年3月、在スペイン日本大使館と協力し、21 トランプ実施した。

<日本酒が好調、和牛は当初の勢いに陰り>

 スペイン税関の統計によると、2015年の日本からの農水産物・食品(HSコード223類からサメを除いたもの、注)の輸入は、前年比3倍の2,119万ユーロとなった。ただし、この大幅な増加は産業向け原料とみられる調整食料品の大口輸入があったことが理由で、これを除いた実質的な日本産食品輸入は、金額ベースで17.4%増の821万ユーロ、数量ベースで22.5%増の1,757トンだった。主な品目別輸入の推移は表のとおり。

21 トランプ

<大部分の日本食材で輸入が伸びる>

 日本食材のうち伸びが目立ったのは、しょうゆ(金額82.0%増、数量23.0%増)、日本酒(28.2%増、43.0%増)、天ぷら粉などの小麦粉(37.9%増、40.1%増)といった代表的な日本食材で、日本食需要の好調さを裏付けた。

 ウイスキー(47.8%減、45.0%減)は過去3年の水準から大幅にブレーキがかかったが、日本産ウイスキーの人気は続いている。201511月にはワイナリー大手トーレスが、フランスのウイスキー輸入卸大手ラ・メゾン・ド・ウイスキーをサプライヤーとして、ニッカウヰスキーのプレミアムラインの取り扱いを開始するなど、販売網も拡充している。

 和牛は2014年夏から輸入が始まり、初年の輸入量は922キロに上ったが、2015年は235キロにとどまった。当地にしては極めて高額な1キロ当たり100300ユーロの価格設定で、安価に出回る外国産やスペイン産の和牛交配種のほか、他の欧州諸国からの迂回輸入など逆風の材料が多いのが実態だ。そのため、ミシュランの星付きレストランや高級和食店、高級精肉店などのハイエンド市場を中心に、和牛の売り込み努力が続けられている。ただ、多くの消費者は「wagyu」が安価な交配種とは異なることを認知しており、そのブランド性や希少性は維持されているといえる。

<日本大使公邸で大規模な日本酒PR実施>

 ジェトロは315日に当地の日本大使館と協力し、21 トランプ日本大使公邸で実施した。同イベントには、新潟、愛知、滋賀などから3つの蔵元の関係者や、当地の日本酒輸入会社、かつお節や緑茶、インスタント麺メーカー、多数の日本食レストラン、報道関係者らが参加し、盛況を博した。

 近年は、日本食材輸入元以外に日本酒を輸入する企業も出てきている。その1つであるサルビオーニ&アロマール(SA)は、もともと日本やアジア市場向けのワイン輸出卸で、日本酒輸入は2012年から開始した後発組だが、日本各地の蔵元からプレミアム酒のみを航空便で直接取り寄せて在庫を持たない「ジャストインタイム」のビジネスモデルで急速に成長した。ワイン輸出業で築いた人脈を利用して、現地人に分かりやすい日本酒テイスティング会を数多く開催し、現在では国内3位の輸入元となっている。同イベント当日も、最高級のイベリコハムと純米酒のペアリングによる試飲・試食を提供していた。

 また、日本の外務省からスペイン語圏で最も影響ある日本食ブロガーに認定され、当地や中南米での日本食普及事業で活躍するロジャー・オルトゥーニョ氏も、繊細なカニ肉には大吟醸、牛肉の煮込みには純米酒など、現地の食生活にもマッチした日本酒の飲み方を解説。さらに、自身のブログ「ComerJapones.com」で日本酒検索機能を提供し、ボトルやふた、ラベル、日本語で書かれた商品名の色などからも日本酒を検索できるようにしている。「当地の消費者にとって、日本酒はまだまだ謎が多い。普及拡大には敷居をできるだけ取り払って理解を促進させることが必要だ」とオルトゥーニョ氏は話す。

<食品分野の日系企業進出が活発化>

 食品分野での日系企業の進出も、引き続きみられた。カルビーは20154月、欧州における有力スナック菓子市場であるスペインに製造・販売子会社を設立した。また同月、和田久はスペイン北西部で、欧州で初のかつお節の生産を開始した。かつお節のEU向け輸出は、製造施設のHACCP(危害分析および重要管理点)認定やかつお節製造過程の薫製で生成される化学物質の規制により、実質的に不可能となっている。同社はEU基準に則したかつお節の現地生産に踏み切り、スペインだけでなく欧州全域に輸出している。

 大塚製薬は201510月、フランス子会社ニュートリション・エ・サンテを通じて、健康・機能性食品大手のビオセンチュリーを完全買収した。パフ状の食品に用いる膨化技術を持つ同社工場を活用し、欧州全域への事業展開を加速する。

(注)3類〔魚ならびに甲殻類、軟体動物およびその他の水棲(すいせい)無脊椎動物〕は、毎年の対日食品輸入の4分の1前後を占めるが、その半分近くが冷凍ザメだ。サメは大西洋やインド洋などの海域で操業する日本船籍の漁船による水揚げと考えられる。スペイン南部・モロッコ沖のカナリア諸島は欧州の漁業基地で、ここで水揚げされたサメの肉やヒレが各国に再輸出される。サメは純粋に日本食材輸入とは言い切れないため、日本食材の輸入総額・総量から除外した。

(成瀬健太郎、伊藤裕規子)

(スペイン)

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