留意点の多い法人税と個人所得税-「カンボジア税務基礎」セミナー(2)-
(カンボジア)
プノンペン事務所
2015年07月30日
「カンボジア税務基礎セミナー」概要報告の2回目は、税法上、「総収入」の定義がない法人税と、全世界での給与所得の申告が必要な個人所得税について。
<法人税の課税対象項目が不明確>
1回目に引き続き、課税方式は「実態課税方式」を前提に説明する。法人税は、月次と年次で申告納付をする。毎月、前払い法人税として、月間総収入〔付加価値税(VAT)を除く〕の1%相当の金額を翌月15日までに申告納付し、年次では決算日から3ヵ月以内に確定申告を行わなければならない。当年度の収支が赤字なら、既に納付した前払い法人税の累計額が当年度の法人税額(最低税)となる。一方、当年度収支が黒字なら、課税所得の20%と前払い法人税の差額を申告納付する必要がある。なお、税法上、「総収入」の定義がなく、課税対象の収入項目は不明確だ。実務上は、売上高に加え営業外収入項目も対象とされることが多い。
適格投資案件(QIP)認可企業は、法人税・月次前払い法人税は最長9年免税となる。免税期間終了後は月次で前払い法人税を申告納付しなければならないが、課税所得がなければ最低税は免除となり、当該前払い額は翌年度以降に繰り越せる。なお、QIP認可企業はカンボジア開発協議会(CDC)から順守証明書(Certificate of Compliance)を取得する必要がある。
<個人所得税は必ず月次申告する必要>
個人所得税は、月次申告を漏れなく行う必要がある。居住者(「カンボジアに12ヵ月間のうち通算183日以上滞在」または「カンボジアに住んでいる、主たる住居を構えている」のいずれかに該当する)と非居住者では所得税の課税範囲が異なる(表参照)。
居住者の個人所得税は、カンボジアでの給与所得だけではなく、日本で支給される給与(カンボジアにおける労働の対価ではなくとも)などを含め全世界における所得額での申告が必要となる。このため、二重課税を避けるためには日本での手続きと税務処理が必要となる。長期出張者の税務リスクは多岐にわたり、カンボジアで申告納税が必要となるケースもある。なお、納税義務者は主に当該従業員への給与の支払者だが、給与支払者がカンボジアで税務登録していない場合の納税方法は税法上明確でない。一方、給与支払者は就労許可証(ワーク・パミット)取得時に雇用契約書を労働省に提出しているので、税務調査時には、雇用契約書と個人所得税の申告内容の整合性がチェックされることになる。
一方、非居住者については「カンボジア非居住者である雇用主が給与などを支払っている」「カンボジアにおいて雇用主が管理する恒久的施設(PE)や事業拠点が給与などを負担しない」の要件を満たせば所得税は免除されるが、従業員に対する住居費、食事代、交際費、電話代、ガソリン代などの現金あるいは現物支給については、課税対象(税率20%)の付加給付(フリンジベネフィット)と見なされるケースが多いことに注意が必要だ。業務上の必要経費なら非課税となるが、それを証明する書類が求められる。
(俣野有美)
(カンボジア)
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