連邦産業院、スペインに高技能労働者の採用ミッションを派遣
ウィーン事務所・欧州ロシアCIS課
2013年12月13日
失業率がEUで最も低く、若年層でもドイツに次いで低いオーストリアで、ITや科学分野で専門の知識や技術を持つ労働者の不足が深刻となっている。連邦産業院(WKO、日本の商工会議所に相当)は2009年から、若年層の失業率が高いスペインに人材募集の企業ミッションを派遣している。WKO外国経済・市場局のカール・ハートレブ次長に11月27日、ミッション派遣について聞いた。
<深刻化する高技能労働者不足>
オーストリアは欧州債務危機の中でも経済の堅調さを維持し、低失業率を維持してきた。EU統計局(ユーロスタット)が11月29日に発表したEUの10月の失業率統計によると、オーストリアは4.8%とEU加盟国中最低で、若年層(15〜24歳)の失業率も9.4%とドイツに次いで低い。オーストリアの若年層失業率が低いのはドイツ同様、大学に進学しない若者に学業を学ばせながら企業や工場で職業実習を行いつつ育成し、就職させる徒弟制度(職業実習制度、デュアル・システムなどと呼ばれる)があるからだ。
しかし近年、高齢化の進展やベビーブーマー世代が引退年齢に達したことなどから人材不足が深刻化している(2012年6月27日記事参照)。連邦産業院外国経済・市場局のハートレブ次長は、不足が深刻化している人材として、(1)ITや科学分野に関する専門の知識や技術を持つ大卒の技術者、(2)徒弟制度で育つ高度熟練労働者、を挙げた。これらの労働者不足に対しては、外国からの労働力の受け入れが有力な解決策となるが、(2)については、育成開始年齢が中学卒業時点の未成年であることがネックだと指摘する。これらの人材を国外から受け入れるには、親の世代を含む家族ごとの移民が必要となるからだ。家族ごとの移民受け入れ拡大に向けては、政治的な合意が不可欠だが、なかなか難しいだろう、とハートレブ次長は語る。
一方、(1)の専門技術者については既に受け入れが認められている。EU域内からの労働者については「ヒトの移動の自由」にのっとってもともと無条件で就労できるほか、EU域外からの労働者に対しても、2011年7月1日から労働許可証「ロート・バイス・ロート・カード」(オーストリア国旗の色にちなみ「赤・白・赤」カードの意)を導入し、外国人の持つ資格、職歴、語学力、年齢を点数に換算し、専門性があると認定した外国人の労働を認めている。
<2009年からスペインへ採用ミッション派遣>
連邦産業院は2009年末から、欧州債務危機による経済破綻で若年層を中心に就職が困難となっているスペインで人材募集を行うことにした。現在は年に3〜4回ミッションを派遣し、毎回10〜15社が参加している。参加企業には、旅費などの実費負担とは別に参加手数料として400〜800ユーロ程度支払ってもらっている。
各社の条件を満たし大学などでITを専攻した人材や機械エンジニアといった人材が応募でき、1社当たり300〜500人の応募があるという。その中から3人程度を選抜し、オーストリアの本社に招いて最終試験を行っており、既に60人以上を採用しているという。
このミッションに積極的なのは、南部ケルンテン州や西部チロル州などのITや産業用機器メーカーなどだ。特に西部はドイツやスイスと近接しており、それらの国の大企業などに優秀な人材が流出してしまうため、人材難が深刻だという。ハートレブ次長は、今後はミッション派遣をポルトガル、アイルランド、セルビア、ボスニア、トルコ、イランなどにも拡大したいと語る。
欧州では優秀な人材確保をめぐって各国間、企業間で激しい競争が始まっている。オーストリア西部では、国外人材の誘致促進のため英語で運営される幼稚園などを造って家族が定着しやすくするといった動きもある。
(鷲澤純、岩井晴美)
(オーストリア・スペイン)
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