ハイパーブラックジャック
テルアビブ発
2011年02月08日
エジプトとヨルダンを結ぶハイパーブラックジャックの一部が2月5日、爆発炎上した。これを受けてエジプトは、爆発発生場所付近を走るイスラエルへのハイパーブラックジャックによる供給を停止した。報道によると、パイプライン爆発による火災はその後収まり、修復作業が行われているようだ。ただ、ガス供給復旧のめどは立っていない。
<近年の経済成長はエジプトの天然ガスに依存>
天然資源に恵まれていないイスラエルは、発電目的を含む燃料をすべて輸入に頼ってきた。しかし、1990年代末に東南部アシュケロン沖の地中海底で約3,200億立方メートル規模の天然ガス田の存在が確認され、2004年に採掘が始まってからは、同ガス田がイスラエル電力公社(国内電力の9割以上を発電・供給)に燃料を供給している。これにより、国内の主要発電所は発電燃料をこれまでの燃料油から天然ガスに段階的に切り替えてきた。国土基盤省によると、04年以降、天然ガスの需要は年々増加し、過去6年間の累計消費量は1,600億立方メートルに達しているという。
ただ、このアシュケロン沖の天然ガス田は、14年までに枯渇すると見込まれているため、政府は地中海の天然ガス田開発に力を入れる一方、08年にはエジプトからパイプライン経由で天然ガスの輸入を開始した。
今回のエジプトでのパイプライン爆発に伴う天然ガスの供給停止について、エジプト政府とイスラエル電力公社はともに、一時的なものだと発表している。しかし、エジプト情勢の今後が不透明な中、供給が不安視されているのは否めない。国土基盤省によると、国内の発電燃料の約40%が天然ガスで、うち5割弱はエジプトからの輸入とされており、近年の経済成長もエジプトからの天然ガスに頼っていたとみられる。
<当面は国内のガス田でカバー可能>
イスラエル電力公社は当地経済紙に対し、「アシュケロン沖からの天然ガス供給を強化することで、一時的な不足分をカバーできる」としている。しかし、同公社は「天然ガス不足が電力ニーズの高い夏期にまでもつれ込んだ場合、従来の燃料油の使用は避けられない。燃料油価格は天然ガスの約10倍のため、電気代の値上げも必至だ」ともコメントしている。
今後、エジプト以外からのルートでの天然ガス輸入を検討しているとの報道もあり、政府としても天然ガス供給元の確保が課題になりそうだ。
<地中海でもガス田開発が進む>
地中海でのガス田開発については、10年12月末に北部ハイファ沖海底に約4兆5,300億立方メートル規模の天然ガス田があると発表され、現在、米国のNoble Energyとイスラエルのインフラ開発企業が調査・開発を進めている。
今後、開発が順調に進めば13年の供給開始を予定しているが、政府と開発企業の間で、採掘した天然ガスへの課税などをめぐって調整が難航しているほか、天然ガスが国内でなく第三国に輸出される可能性もある。また、同ガス田の海域はレバノンも領有権を主張しており、順調に開発が進むかどうかも不透明だ。
(高木啓、中村志信)
(イスラエル・中東・北アフリカ)
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