5月1〜5日は行政と企業活動を原則停止−商店や交通機関など生活に不可欠な業務は除く−
メキシコ発
2009年05月01日
政府は5月1〜5日の間に限り、商店や交通機関など生活に不可欠な業務や医療・衛生関連業務を除き、行政府と民間部門の業務を原則停止することを命じた。同期間は大型連休と重なっているため、経済活動に与える影響はそれほど大きくないと考えられるが、米国向けに部品を生産している企業などは米国側の生産計画との調整が必要で、影響が出る可能性が高い。また、既に観光や商業などで新型インフルエンザの影響が拡大しており、マクロ経済に与える打撃は大きいとみられている。
<国民生活に直結する部署は開庁>
4月29日に発表された(官報公示は4月30日)保健省細則によると、今回発表された措置は以下の3つからなる。適用期間は5月1〜5日。
(1)5月1〜5日の間、連邦行政機関(中央省庁、国営企業)の業務を原則停止する。ただし、国民の生活に直結すると各省や機関が判断した部署・窓口は開庁する。
(2)同期間、州政府も連邦政府と同様の措置を取ることを求める。公共交通機関(地下鉄など)は営業を続ける。
(3)同期間、民間部門も原則として経済活動を停止する。ただし、病院、診療所、薬局、研究所、医療サービス、金融サービス、電話通信サービス、マスコミ、ホテル、レストラン(閉鎖空間で人の密集がない場合)、ガソリンスタンド、市場、スーパー、雑貨店、輸送サービス、ガス配給など、国民の基本的生活や現在の緊急事態に対処するための活動は継続する。
なお、4月29日の記者会見での連邦政府当局者の発言によると、メキシコ市のレストランなどの閉鎖措置のように、各州は独自の判断と権限に基づき、管轄地域の経済活動の追加停止措置を行うことができる。
5月1日はメーデーで国民の休日、5月5日はプエブラ戦勝記念日で慣習的休日となっているため、実質的な労働日は5月4日(月)だけだ。また、メキシコでは休日の間の労働日を休みにして連休にする「プエンテ」(「橋」の意)が一般的で、感染発生以前からこの期間を自主的に連休に設定していた企業もある。
<保税加工企業には生産停止まで求めず>
従って、政府は今回の措置による影響は大きくないとみているが、国境地帯などで部品などの中間財を生産し、在米の組立工場などに供給するマキラドーラ(保税加工)企業などは、米国側との生産調整が必要となるため、少なからぬ影響があるとみられる。また、製造業では土日も操業している企業もあり、不況で生産を止めやすい環境にあるとはいえ、影響は出てきそうだ。
これらの悪影響を緩和するため、いくつかの州政府は、企業が生産を続けることに対してある程度寛容な姿勢を示している。バハ・カリフォルニア州のアルフォンソ・アルバレス経済振興庁次官は、ジェトロの電話取材に対し、「州政府としてはマキラドーラ企業に対して生産量を減少させることを求める」と語り、マキラドーラ企業に対しては生産停止までは求めない考えを示した。
ヌエボレオン州経済開発庁のソフィア・フローレス外国投資コーディネーターも「企業の管理部門は休業することになるが、工場は生産活動の水準を下げることでよいだろう」と、製鋼所など休日でも操業を止められない分野があることを認め、州としてある程度の配慮をする考えを示した。
<GDPへの影響を0.3〜0.5%程度と試算>
新型インフルエンザ感染の広がりは、メキシコ経済に大きな打撃を与えている。特に08年に108億ドルの外貨を獲得し、主要な外貨獲得源の1つになっている観光業への打撃は深刻だ。
メキシコ市商業・サービス・観光会議所(CANACO)のアルトゥーロ・メンディクチ会頭によると、メキシコ市内のホテル利用者数はこの1週間で90%減少し、過去16年で最低となっている。カンクンなどの観光地でも深刻な状況になっており、広告代理店ノウランド・グループ(Knowland Group)が実施したアンケート調査によると、カンクンのホテル予約の35〜40%がキャンセルされている(「レフォルマ」紙4月30日)。
レストラン、バー、百貨店、ショッピングモールなどの商業も深刻な状態となっており、CANACOによると、メキシコ市の商業部門は1日当たり7億7,700万ペソ(1ペソ=約7.14円)の損害が出ている。これは、通常の経済活動の約36%に相当する。レストランなどの活動縮小により、モデロ(Grupo Modelo)やフェムサ(FEMSA)などのビール会社の販売も落ち込んでいる。
他方、ビタミン剤や風邪薬などの医薬品、マスクやせっけん、除菌剤、消毒用アルコールなどの衛生関連製品の売り上げは増えている。ビタミンC補給の目的でオレンジの売り上げが好調なほか、缶詰などの保存食品も売れている。
しかし、全体としては大きなマイナスの影響が確実視されており、カルステンス蔵相は4月29日の記者会見で、新型ウイルス感染によりGDP成長率は0.3〜0.5%ポイント押し下げられるとの試算を示している。これは、アジアでのSARSの事例を基に試算した数値だ。
中央銀行は4月29日に発表した第1四半期のインフレ報告の中で、09年の年間成長率見通しを、1月末時点見通しのマイナス0.8〜同1.8%から、マイナス3.8〜同4.8%に大きく引き下げた。これは新型インフルエンザ感染を考慮に入れていない段階だ。ムーディーズ・エコノミー(Moody’s Economy.com)のアルフレド・コウチーニョ・ラテンアメリカ担当ディレクターは、09年のGDP成長率は新型インフルエンザ感染の影響により、マイナス6.2%まで落ち込むとみている。
政府は、自然災害対策基金に蓄えられた資金や世界銀行、米州開発銀行の特別融資を、感染対策と経済への影響緩和に充てる。現時点で自然災害対策基金に蓄えられた資金は63億ペソだが、連邦予算を柔軟に活用することにより、「63億ペソで足りなければ2倍、それでも足りなければ3倍の資金を対策に充てることができる」と蔵相は語っている(大統領府プレスリリース4月29日)。
<移動制限は設けず、拠点での監視を強化>
WHOの警戒レベルが5に上がった後も、政府はWHOの指針に従い、国境閉鎖や国内移動を制限する措置は取っていない。その代わりに、空港や長距離バスターミナルなどでの旅行者の感染の有無の監視作業を強化している。国内の主要な空港と長距離バスターミナルに、合計1,500人の医師と1日当たり合計20万通の問診表を置き、旅行者の健康状態を確認し、異常が見られた旅行者に対する診断と医療機関への誘導、搬送を行っている。
4月29〜30日には国際・国内旅客航空輸送の9割を占めるメキシコ市、カンクン、モンテレイ、ティファナ、ロスカボス、グアダラハラ、バジャルタ、トルーカの8主要空港に赤外線温度測定カメラを設置し、入国管理区域と出発ロビー(チェックインカウンター付近)で旅客の検査を行っている。今後、主要8空港以外にも順次カメラを導入していく計画だ。
<メキシコ市での感染拡大は沈静化か>
感染が最も広がっているメキシコ市では、ここ数日の感染者数の拡大は沈静化しているようだ。マルセロ・エブラルド・メキシコ市連邦区長官は「現時点では心配していたような感染者の急速な増加はみられていない」とし、今週に入って感染者の拡大が沈静化しつつあることを示した。
ただし、「もちろん、油断すべきときではない」と述べており、連休期間中の予防措置を徹底・強化し、連休中の感染動向を確認した上で、来週以降の対策を考慮する計画だ。連邦政府が決定した連休中の行政・経済活動の一時的停止措置に同意し、メキシコ市政府としても最低限の業務だけを行うと発表している。
なお、4月30日13時半時点の連邦保健省の発表によると、新型インフルエンザウイルス感染確認件数は260件、うち死亡件数は12件。確認感染者数のうち42人は退院しており、218人が入院中。
まだ、2,498件の感染ウイルスの特定が終わっていないが、保健相は4月30日の記者会見で、現在ウイルス検査が行われているメキシコ市の研究所に加え、数日中に国内5ヵ所の研究所で設備の導入と検査体制の整備が行われるため、今後は確認のスピードが大幅に増加することになると語った(大統領府プレスリリース4月30日)。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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