勢い増すファストフード店−金融危機下の好調業種を探る−
ロンドン発
2009年03月11日
世界的な景気低迷の中、生活必需品である食品分野でも大きな変化がみられる。消費傾向が「外食から家庭食へ」、「高価な商品から安価な商品へ」と移行していることを背景に、売り上げを伸ばし新規雇用計画を打ち出している外食産業も少なくない。外食産業に絞って最近の動向をまとめた。
<レストラン業界は全体的に低迷>
世界的な金融危機以来、レストラン業界全体も不景気の深刻な影響を受けている。コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の調査によると、国内のレジャー・ホスピタリティー分野では、2008年第4四半期に破産状態にある企業の45%がレストランだという。また、同期中に141のレストランが閉店しており、前年の107店を大きく上回った。08年通年では前年比32%増の503店が閉店している。
<新規開店を競うファストフード店>
一方で、リサーチ会社NPDクレストの調査によると、食費節約などの理由からファストフード店を利用する消費者の割合は08年第1四半期に前年同期比3.2%増えている。
この流れはファストフード各社にとって追い風となっており、各社は経営規模の拡大を図っている。「フィナンシャル・タイムズ」紙(2月18日)や「メトロ」紙(2月16日)の報道によると、マクドナルドは08年夏、国内で4,000人の新規雇用を創出し、09年内に20店程度の開店を計画している。ケンタッキーフライドチキンは08年度に36店を新規に開店し、1,000人の新規雇用を達成した。さらに向こう3〜5年内に9,000人規模の新規雇用を計画している。大手サンドイッチショップのサブウェイは11年までに7,000人の新規雇用と600店の開店を計画している。ドミノピザやピザハット、バーガーキングといった大手ファストフード店も同様の傾向にあり、景気後退の中で値段の安さを武器に成長を続けている。
<フィッシュ&チップスの売り上げも増加>
英国の伝統料理として知られるフィッシュ&チップスの売り上げも増加している。フィッシュ&チップスは国内で最も一般的な持ち帰り食品の1つだ。
「ザ・デイリー・レコード」紙(1月21日)によると、英国のフィッシュ&チップス9,500店の08年3〜11月の売り上げは7億1,700万ポンドとなり、前年同期の7億500万ポンドから1,200万ポンド増加した。客数も同じ時期に延べ約55億人(英国の人口は約6,000万人)と3.5%増加している。
<健康志向と安価志向>
食品基準庁が09年1月30日に発表した調査「Public Attitudes to Food Issues」によると、「外食の際に何を最も重要視するか」という質問に対して、「手ごろな値段」(47%)という回答が最も多く、「健康に良い」も4割に上った(図参照)。英国では近年、肥満問題などから健康食ブームとなっているが、消費者は食に対して健康面と同時に価格面も重要視していることがうかがえる。
しかし、現実には健康的で、かつ安価な食品を買うことは難しい。「ガーディアン」紙(1月31日)は、オーガニック食品を扱っている米国資本の高級スーパー、ホール・フーズの苦戦を伝える記事の中で、不況のために「(健康志向といわれる)マークス&スペンサーから、(庶民向けといわれる)テスコで買い物するようになった」といった消費者の声を紹介している。
(滝沢将史、椎名由祐)
(英国)
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